第11話
…異変に気付いたのは、十六時頃だった。
最初に間下が違和感を覚え、それは発覚した。時計が十六時二十八分を指しているのに、外が異様に明るかった。まるで、昼間のように。当初は時計の故障を疑った間下だったが、家にある時計全てが十六時二十八分を指していた。
そこで、窓から外を見て、間下は異変に気がついた。太陽がまだ空のテッペンにいたのだ。あのサラリーマンと酒盛りした時と太陽の位置は変わっていないが、時刻は夕方を示している。
二人は空を見上げたまま、少しばかり動けなかった。しかし、時刻で言えば夕方、怪異に化かされているのだと思い、互いに手を取り合って芋虫の言葉を待った。
【またあわん めざめはのちの たそがれぞ ひはいりぬとも みちはうせず】
一言一句、変わらなかった。
どうやら、芋虫は時刻と太陽の動きのズレについて語るつもりはないらしい。どこに行けばいいのかも分からなかったが、何か行動を起こさなければという気持ちも、外より自宅が安全だろうという確証のない意識もあった。時間だけが過ぎて行き、夜中の十時になっても、外は依然として明るく、太陽が僅かに傾いただけだった。
「時間の流れが遅いのか」
志貴の言葉は信じがたいが、日は少しずつ沈んでいる。いつもと同じ光景だが、人がいない代わりに怪異が跋扈し、一日の時間の速度も自分たちとずれている…まるで、隣り合わせの別世界に迷い込んでしまったような、この状況…。
「この場合、明日が三日目なのか」
この火傷が現れたら、三日以内に死ぬ。時計では今、二日目が終わろうとしているが、自分たちを照らす太陽を信じるならば、まだ二日目のお昼だ。
「知らん。だが…日が沈んでも道は残ってると芋虫が言ってる以上、コイツの言う黄昏を待つしかないだろ」
『ひはいりぬとも みちはうせず』の部分か。
「…よし、寝るぞ」
「ね、寝るのか」
「どうしようもないなら、体力を温存するに限る。いざ事が起こった時に、疲労で動けませんじゃ話にならん」
間下は太陽を見ることを止めてカーテンを閉めたが、日の光がカーテンの隙間を縫って入ってくる。
…窓に背を向けて布団に籠れば多少は暗くなるだろうか。
「それも‥そうか…」
「ベッドは譲ってやる」
そう言い放った間下は予備の掛布団を押し入れから引っ張り出すとソファに寝転がった。
「俺がソファで寝るよ」
志貴はソファに横たわる間下を覗き込みながら、心配そうに声をかける。間下は昨日もベッドを志貴に譲り、ソファで寝入っていた。譲ってくれるのはありがたいが、取れる疲れも取れないだろうと志貴が言えば、間下は閉じていた目を開ける。
「無駄に背がでかいんだ、体を痛めるぞ」
間下の言うとおり、志貴がソファで寝ようものなら、背や足を折り曲げる必要があり、十中八九、翌日は体全体がバキバキと音を鳴らすことになるだろう。
「大人しく、家主の言うことを聞いておけ」
起き上がる素振りすら見せない間下に言われ、志貴は遠慮がちにベッドへと横たわる。窓の方を見れば、まだ日が高く、昼寝でもするかのようだが、時計は夜中の十二時を過ぎている。真昼のように明るいのに、深夜なのだ。それが事実とは到底思えないが、情報と思考がそう伝達してくる。
ワーカーホリック気味の間下にとって、明るい時間から寝るなんてことはないのか。明るい=勤務時間である昼間と身体が認識しているようで、なかなか眠れないらしい。
薄暗がりの中で何度も寝返りをしているのが聞こえてくる。
― 二夜
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