ヒトノモノ その98 卒業
九十八
桐谷は涙も見せないように家路についた。アカネが自分のことを好いてくれていると勘違いしていた自分を恥じた。けれども、アカネが自分の方を振り向いてくれないのは当然のことのようにも思われた。今までの経験からして、アカネのように魅力的な女性が自分に話しかけてくれることなどなかったのだから。
アカネはもう一度、観覧車に乗った。さっきまで、目の前にいた桐谷の泣いた顔を思い浮かべていた。どうして、早く帰ってしまったの?もっともっと泣いている顔をみていたかったのに。
アカネは桐谷に対して、個人的な恨みなど決してなかった。アカネは男という生き物の総体を恨んでいた。女の容姿で判断し、採点し、愚弄する全ての男の視点を憎んでいた。表面的なことからしか女の心を察することのできない頭の悪さに嫌悪感を抱いていた。運が悪いことに、桐谷は男の代表としてサンドバック代わりにされただけだった。
アカネは観覧車がてっぺんにきた瞬間、吹き出してしまった。初心で純情だった男の心を傷つけたことに対する快感は尋常なものではなかった。
それ以来、アカネはとっかえひっかえ、いろんな男の心を弄んだ。けれども、桐谷のように優しい男には会うことができなかった。アカネは少しだけ彼を好きになることができなかった自分は損をしたような気がした。けれども、アカネは全く恋という感情が分からなかった。ただ、恋をしている演技だけが上達するだけだった。
そして、アカネは高校を卒業して、県外の大学に進学した。そこで、初めて、アカネに友達ができた。




