ヒトノモノ その93 成績
九十三
「アカネさんは文系にするの?」
「文系にする」
「僕は理系にするよ」
アカネはそれを聞いて安心した。そろそろ、潮時かもしれない。アカネは桐谷の相手をするのが面倒になってきた。だからといって、猛烈な敵意を持っているわけでもなかった。たんなるお遊びのための演技に疲れてしまったのである。
「別々のクラスになっちゃうね」
「そうだね。なんか寂しいなあ」
早く、ふりたくて仕方がなかった。けれども、今ふってはつまらない。アカネはうまくいくシチュエーションを考えていた。涙を流して、首を垂れるシーンが確実に目に収めたい。けれども、なかなか良い機会が訪れなかった。
そんな折、前回のテストの点数が自宅に送付された。アカネは自分の順位よりも桐谷の順位が気になった。桐谷の順位は5位だった。彼の順位が下がっていた。言うまでもなく、アカネが勉強に誘ったせいである。けれども、アカネは納得がいかなかった。もっと前から誘ってあげれば、よかった。そんなアカネの順位は3位だった。
学校の帰り道、二人は並んで歩いた。
「アカネさんの順位、上がってよかったね」
桐谷はわがことのように喜んでいた。
「桐谷くんが教えてくれたおかげだよ。ありがとう」
アカネは頭を下げた。けれども、そこには感謝の意などどこにもなかった。アカネは自然とニヤけていた。けれども、顔を上げた瞬間、いつものアカネに戻った。
「親に一位じゃなかったこと、怒られたんだ」
と桐谷は本音をもらした。
「ごめんね。私のせいだよね」
「そんなことはないけど」
「桐谷くんは勉強以外にもいいところあるよ。私がそのことを一番知っているから。桐谷くんの優しいところとかね」
そんなことを言いつつ、アカネは成績の良さ以外、彼の長所が思いつかなかった。
「ありがとう。アカネさんしかそんなこと言ってくれないよ」
自分に自信がない男がどんなセリフを求めているのかを即座に判断することなどアカネにとって、造作のないことだった。
いつもの分かれ道になった。
「じゃあね」
アカネは家に帰ろうとした。
「待って、アカネさん」
やっと、来たか。アカネは桐谷が何かを言いだすのを待った。けれども、桐谷は何も言いだせなかった。
「ごめん、何でもないよ」
「どうしたの?」
「本当に何でもないんだ」
桐谷は何かを誤魔化そうとした。いたたまれなくなった桐谷の方から、歩を進めた。
さっさとふりたい。アカネはそう思うだけだった。




