ヒトノモノ その91 追撃
九十一
「みーたんと似ているって言いたかったの?それがそんな大事な話なの?」
「なんと言えばいいんだろう。昔から、アカネちゃんのことが」
「わたしのことがどうしたの?」
アカネはケンジが何を言いたいのかが分かっていた。けれども、何も分かっていない演技をした。
「あのー」
とケンジは口をもごもごさせた。
「そんなに言いだしにくい話なの?」
「昔から、アカネちゃんのことが好きでした。つ、つ、付き合ってください」
アカネはこのセリフをずっと待っていた。
「私なんかでいいの?わたし、ケンジくんが言うほど可愛い娘じゃないよ」
「アカネちゃんは可愛いよ」
「私よりも可愛い娘いると思うよ」
「そんな人に会ったことないよ」
「ありがとう。でも、いつから可愛いって思ってくれたの?」
アカネは首を少しだけかしげてみた。
「中学生のときから」
「ほんとに?じゃあ、クラスでどれくらい可愛かった、私?」
アカネは前のめりでケンジに近づいた。
「一番、可愛かったよ」
「へえ、13番目だった気がするけどなあ」
「どういうこと?」
アカネは突然立ち上がって、手を振った。すると、遠くの席から女の子が近づいてきた。格付けリストで一位のサワだった。
「なんでここにいるの?」
ケンジは驚いていた。
「私よりもサワちゃんの方が可愛いと思うよ。13位よりも一番の方がいいと思うけど」
ケンジはやっと格付けリストのことを思い出した。
「あの格付けは昔のことで、今はアカネちゃんが一番だよ」
「嬉しいなあ。でも、こないだサワちゃんにふられたばっかでしょ」
サワは小さく頷いた。
「サイテー」
とサワがケンジに一喝した。サワはその場にいるのが嫌だったらしく、それだけ言い残すと店を出た。ケンジは何も言うことができなくなった。
アカネはケンジの虚ろな瞳を見た。たまらない。早く、泣きなさいよ。けれども、ケンジは泣かなかった。アカネはトドメの一撃を加えることにした。
「あと、私、付き合っている人いるんだ」
そこに、桐谷が現れた。アカネは見せつけるように桐谷の腕を自分の体に抱き寄せた。ケンジはなすすべがなかった。桐谷は顔が赤くなった。
「じゃあね」
アカネは桐谷と手をつないで、店を出た。後ろを振り返り、ケンジの落胆した表情を見て、満足感に浸った。アカネは嫉妬している男のやるせない背中を嘲笑った。
「ありがとう、桐谷くん。彼氏のフリしてくれて」
「いいよ。アカネさんのためなら」
アカネはつないだ手を離した。そのとき、桐谷は少しだけ肩を落とした。アカネは桐谷をふったら、どんな顔をするのかが見たくなってしまった。




