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ヒトノモノ  作者: Kusakari
アカネ パート2
89/120

ヒトノモノ その89 計略

八十九

 アカネの望んでいた返事がスマホに届いた。言うまでもなく、ケンジからの返事だった。アカネは中学校のときのクラスのグループラインに入っていたため、ケンジはそこからアカネの連絡先を見つけたのである。


 「どういう意味?」

ただ、その一言だけがきた。

「何が?」

アカネは何も知らないフリをして、返事を送った。すると、アカネが書いたルーズリーフの画像が送られてきた。その画像には、アカネが左手で書いた字で、「ケンジくんのことが好きです。アカネより」と書いてあった。


 「何これ。そんなことしてないよ。誰かのイタズラだよ。そんなに字、汚くないよ」

とアカネが送ったあと、返事がなかなか来なかった。

「なんだ、イタズラだったのか」

画面の奥で、ケンジが落ち込んでいるのを想像して、アカネは笑いが止まらなくなりそうだった。

「久しぶりに、ケンジから連絡がきて、嬉しいよ」

心にもないことを送信した。

「アカネちゃん本人から、告白されたと思って、オレも嬉しくなっちゃった」


 ケンジはアカネにしたことを忘れて、気楽に連絡してきた。アカネにとって、ケンジの返事は腹立たしいことだった。


 アカネは「誰があなたのことなんか好きになるの?」と送信してやりたくなった。けれども、本音を打たなかった。


「誰がこんなことしたんだろう。心当たりある?」

「全然」


 ここでアカネは会話のラリーを止めた。アカネは自分から誘うような真似はしたくなかった。というのも、自分が相手を必要としているのではなく、相手が自分を必要としているというシチュエーションを演出したかったからである。つまり、仕方なく付き合ってあげたと言い張って、逃げられる状況にしたかったのである。


 アカネはケンジからの返事を待った。じれったくて、仕方がなかった。罠を仕掛けて、獲物が来るのを待つような心境だった。やっと、ケンジから返事が来た。引っかかった。


 「アカネちゃんは、桐谷っていうガリ勉と付き合っているの?」

期待外れな返事だった。

「付き合ってなんかいないよ。でも、桐谷くん、けっこう優しい人だよ(笑)」

この文面をケンジはどう解釈するだろうか。

「二人で歩いているところを見たんだ。だから、どうなのかなと思って」

ケンジが変な関心を寄せているのだとアカネは読み取った。

「どうして、そんなこと聞くの?」


 その後、なかなか返事が来なかった。それでも、アカネは自分から返事をすることはなかった。


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