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ヒトノモノ  作者: Kusakari
アカネ パート2
86/120

ヒトノモノ その86 遊戯

八十六

 「一緒に勉強しよう」

「ごめん。一人で勉強したいんだ。テスト期間くらい一人で勉強した方がいいと思うよ」

「じゃあ、違う人に教えてもらおうかな」


 アカネは常に効果的なフレーズを模索していた。どうすれば、相手の気を引くことができるのかを研究していたのである。そして、そのフレーズがうまくいくと、ゲームを攻略したように愉快な気分になった。


 アカネはそう言って、教室から出ようとする。

「待って、アカネさん」

「教えてくれるの。嬉しい」


 アカネは大げさに喜んでみた。けれども、あまりに相手がチョロいため、興ざめしてしまった。


 二人は安いカフェに行き、向かい合って座った。桐谷はどこに焦点を合わせたら、よいのかが分からず、視点が安定しなかった。


 「僕なんかと一緒にいるのを見られても、恥ずかしくないの?」

「なんで?ただ、勉強しているだけでしょ」

「それはそうだけど、僕とアカネさんがいるところをクラスの人が見たら、どう思うかな?」

「別に付き合っているわけじゃないんだから。心配しないで」


 アカネは桐谷のことを友達とも恋愛対象とも思っていなかった。このどっちつかずな状態をキープしつつ、彼を誘惑して、嘲笑いたいだけだった。


 「アカネさんは、付き合っている人いないの?」

「いないよ」

「すごくモテそうだから、いるのかなって思って」

「モテそうに見えるの?」

桐谷は小さく頷いた。

「嬉しいなあ。そんなにモテないよ。誰とも付き合ったことないよ」

アカネは謙遜しつつも、自分の自尊心を満足させていた。


 その後、アカネは桐谷に数学や古典について教えてもらった。桐谷はアカネに頼まれると断ることができなかった。こうして、アカネは桐谷の学習時間を徐々に奪っていった。たんに告白させて、ふってしまうよりも、まずは彼の成績を下げてみたかったのである。


 「ありがとう。こんなに教えてくれて」

そんなことを言いつつも、だいたいのことは桐谷に聞かなくても、アカネは理解できていた。

「僕の方こそ、勉強になったよ」

桐谷が気遣ってくれたことくらい、アカネは分かっていた。というのも、4時間も一方的に教えてもらったからである。


 帰り際、桐谷は自分とアカネの分のコップを返却口に戻した。

「ありがとう。ほんと、桐谷くんって優しいね」

「別にいいよ」


 確かに彼は優しかった。けれども、アカネは彼に全く興味を持たなかった。たんなる恋愛ゲームの駒にすぎなかった。


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