ヒトノモノ その85 標的
八十五
アカネはもともと勉強ができるタイプだった。そのため、大した苦もなく、受験勉強に励むことができた。その結果、県内で有数の進学校に行くことができた。
アカネにとって、高校生活は刺激のない退屈な生活だった。進学校ということもあって、たんに授業を受け、宿題をこなすだけの日々だった。これといって面白いこともない代わりに、これといって楽しいこともなかった。
中学校の時は拒食や過食を繰り返したがゆえに、学校生活を楽しむどころではなかった。その後の中学校生活では、周囲の反応が変わっていくのに快感を覚えていた。けれども、高校生活ではそんな快感がなかった。つまらない。それがアカネの正直な感想だった。
どうしたら、あのときのような快感を得ることができるのだろうかとアカネは現状のつまらなさを解消する方法を考えていた。
そんな折、高校に入って最初のテストの成績がアカネの家に届いた。アカネの順位は7位だった。
「すごーい」
と両親はアカネを褒めた。
「まあね」
アカネは自分の順位よりも1位が自分の隣の男子であることに驚いた。桐谷という男子だった。確かに彼はいつも真面目に授業に取り組んでいた。だから、成績が良いのも合点がいった。
「桐谷くんって、頭いいんだね」
次の日、アカネはきさくに話しかけた。
「ありがとう」
彼は照れくさそうに笑った。
「ねえ、ここの問題って、どう解くの?」
アカネは自分が解いている問題を彼に見せた。彼は淡々と説明した。
「分かりやすいね。流石だね」
「そうかな」
その日から、アカネはことあるごとに桐谷に質問した。
「ごめんね。いつも尋ねてばっかりで」
「大丈夫だよ」
「桐谷くん以外、頼れる人がいなくて」
上目遣いでちょっと優しい一言を言っただけで、男が表情を変える。そして、勝手に好きになって、勝手な妄想に浸り、勝手に恋をする。アカネは兄を通して、男という生き物を理解していた。
男の期待値を上げるだけ上げて、ふったときの「なんで?」という悲嘆に満ちた顔が見たい。中学校のときの悪しき快楽が忘れられなかった。アカネはすがるような目で彼を見つめながら、彼を自分の餌食にしたい気分だった。
アカネは恋なんてバカらしいと軽蔑していた。それに、恋愛感情そのものがよく分かっていなかった。けれども、アカネは男が恋をするとどうなるかくらいは理解していた。




