ヒトノモノ その81 面倒
八十一
中学三年生になったアカネは平凡な日常を取り戻していた。拒食に陥ることも過食に走ることもなくなった。男にどう思われようとも、今の彼女は平気だった。それに昔のように人の視線に怯えるようなこともなかった。
アカネが校門からでたとき、同じクラスの男の子であるコウキが急に後ろからやってきた。アカネは何とも思わず、平然と歩いていた。
「あのー」
と男の子はアカネに話しかけた。
「なに」
とアカネが答えると、彼はモジモジしているだけで、何も言わなかった。アカネは彼を無視した。すると、彼はアカネとは逆方向にいなくなった。
また次の日、同じように彼が校門のところにいた。
「アカネさんのことが好きです」
と脈略もなしに突然そう言った。アカネは何と言っていいのか分からなかった。というのも、彼にこれといった嫌悪感も好意もないからだった。
「考えておく」
とアカネは受け流した。
けれども、よくよく思い返すと、彼もケンジがつくった格付けリストを楽しんでいたメンバーの一人だった。より正確に言えば、クラスの男子のほとんどが吞気に格付けをしていた。
自分の容姿に対して、あれほど酷い点数を付けていた男がちょっとした見た目の変化で自分に好意を寄せることがアカネは許せなかった。どういうふうに断ろうかとアカネは歩きながら、考えていた。けれども、なかなか、良いアイディアが思い浮かばなかった。
自分一人で考えても、埒が明かないため、アカネは家族に相談することにした。摂食障害が治ったときから、アカネはことあるごとに相談することにしていた。
「今日、学校で告白されたんだけど、どうしようかな」
「付き合えば」
と兄は無責任なことを言った。
「好きな人ではないの」
「だったら、適当に無視したら」
と父親が言った。
「こういうのははっきりさせた方がいいわ。あとあと、面倒なことになる。好きじゃないっていうのも大事よ」
と母親が声を大きくして言った。
「そんなはっきり言っていいの?」
とアカネは返した。
「昔告白されて、面倒なことになって」
母親は何かを物思いに耽ろうとしていた。
「あのときの話か」
と父親は母親が何を言いたいのかを理解していた。
「初めて、その話聞くんだけど?聞きたい」
と兄は興味津々だった。
「もう思い出したくないから、これ以上は言わないわ。まあ、面倒な男の子はちゃんと断った方がいいと思うよ」
「ちゃんと、明日断ろうかな」




