ヒトノモノ その80 回復
八十
「ずいぶん、変わったね。メガネかけている時と印象が全く違うよ」
「そうですよね。不思議なんですけど、コンタクトにしてから、少しずつ自分に自信が持てるようになったんです」
「よかった。元気になって。最近、食欲はどうですか?」
「割と普通に戻ってきました。たまに食いすぎてしまうときがありましけど」
「どれくらい、食べるの?」
「カップラーメン、三つくらいです」
「めっちゃ、食べるね。僕はそんなに食えないよ」
「本田さんはそんなに食べそうに見えないですね」
「普通くらいかな、僕は」
アカネは本田に満面の笑みを見せた。アカネの体重は元の状態に戻り、顔色も良くなった。ガリガリに瘦せていたはずの身体が生気を取り戻していた。本田はその様子を見て、彼女が何かを乗り越えたのだと悟った。
「何かコンタクトにしたきっかけがあったの?」
「なんとなくです」
アカネは決して兄の一言だとは言わなかった。
「コンタクトにしてから、前に話した格付けリストのことがどうでもよくなったんです。別に男の子にどう見られているかではなく、自分がどうなりたいのかが大事だと思ったんです」
「前より、一段とアカネさんはたくましくなったんだね」
「自分でもそんな気がします」
その後、二人は他愛もない話を続けた。
「また何かあったら、カウンセリングに来ていいですか?」
カウンセリングの時間が終わりに差し掛かり、アカネは名残惜しそうに本田に尋ねた。
「いいよ。また、何かあったら、来てね」
「そうします。本田さんが担当のカウンセラーで本当に良かったです。本田さんのおかげで、ここまで回復することができました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。本田さんはカウンセラーに向いているんですね」
「そこまで、褒められたのは初めてかもしれない。ありがとう。励みになるよ。僕まで元気をもらったよ」
本田はずっとカウンセリングをしてきたアカネの成長を目の当たりにして、久しぶりに自分の仕事に誇りを覚えた。
「ありがとうございました」
アカネは元気な声で挨拶した。
本田はにこやかな表情を浮かべ、アカネに手を振った。本田はアカネのきびきびとした様子を見て、当分アカネがカウンセリングに来ることはないと確信した。




