ヒトノモノ その82 中身
八十二
ただ、断るだけでは面白みに欠ける。アカネはコウキを困らせる方法をずっと考えていた。何か相手の心に突き刺さるようなやり方や言葉はないのだろうか。
「今日から、みーたんの新コーナーが始まる」
兄はテレビをつけた。家族一同は仕方なく、みーたんを見ることになった。
「今日の新コーナーは、「みーたんへの要望」と言って、みーたんがファンの妄想に応えてくれるコーナーなんだ。ぼくの送ったメールが採用されるかもしれない。お願いします。採用してください」
兄は誰も聞いていないのにもかかわらず、しゃべり出した。その後、効果はないが、両手を合わせて、祈り始めた。
タイトルコールを言い終わると、みーたんの顔がアップになった。
「ツインテールのみーたんは珍しいんだよ。いつもは髪を結ばないんで、ロングなんだ」
兄は一人だけ楽しんでいた。
「わたしのこと好きなの?」
みーたんは首を少しだけ曲げて、唇を少しだけ尖らせていた。アカネでさえも、その大きな目がきれいだと感じた。
「大好きだよ」
兄はテレビに向かって、話しかけていた。アカネは兄の恥ずかしい様を見て、鳥肌が立った。
「わたし、好きだって言われたことなくて、こういうの初めてなんだ」
「初めてなんだ」
兄はまるでみーたん本人にそう言われているかのような気分に浸っていた。しかし、そんなわけがないとアカネは心の中でツッコミを入れていた。
「わたしのどこが好きなの?」
とみーたんは少しだけ、間を開けた。
「わたしの顔がタイプなんだ」
さらに、みーたんの顔がアップになった。
「やっぱ、みーたんは可愛いな」
兄もテレビに近づいていった。
すると、みーたんは急に自然に上げていた口角を下げ、ポカンと口を開けた。
「ごめんね。わたしの中身を見てくれない人はお断りなの」
仰々しいテロップとともに、みーたんは視聴者を睨んだ。兄は言葉を失っていた。
「顔だけが好きなわけじゃないよ。みーたんの頑張り屋さんのところも好きだよ。中身だってぼくは見てるよ」
アカネは兄のセリフを言い訳だと断じた。それと同時に、女の子に自分の都合の良い妄想を言わせて、愉快な気分になっている男たちが兄以外にもたくさんいることを想像すると、アカネは男という生き物がとかくわがままだと感じた。




