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ヒトノモノ  作者: Kusakari
藤原 パート1
76/120

ヒトノモノ その76 慄然

七十六

 時が過ぎていったところで、これといった出来事は起こりませんでした。しかし相変わらず、僕の頭の中では様々なストーリーが描きだされ、僕はまるで夢の中にいるときのような快楽と現実の狭間の間で揺れ動きました。


 それゆえ、現実の世界があまりにも味気なく、空虚なものへと変わっていきました。どうすれば、現実の世界における本当の幸せを手に入れることができるのでしょうか。僕はその問いに悩み続けました。


 僕は現実の世界にいる本物のレイナさんを愛することができないのです。どこまでいっても、レイナさんはスミレさんの代用品にすぎないのです。こんな血も涙もないようなことを言いたくはないのですが、仕方ありません。


 だからといって、この想いをスミレさんにぶつけるわけにもいきません。僕の醜い欲望を解放するあてがどこにもないのです。そのため、自分で自分を慰めるような無様なことをせざるを得ないのです。


 どうして、僕はこんなにも愚かなことに悩んでいるのでしょうか。自分がこの世界に生きていなくてはならない確固たる理由が欲しいのです。そのために、僕は愛されたいのです。家族愛や君の友情では満足できなかったのです。美しい恋人による神々しい愛の力でなくては満足できないのです。神を信じられない僕にとって、スミレさんは神様のような人だったのです。


 しかし、僕は本当の意味でスミレさんを愛することができなかったのです。僕は彼女に欲情していただけなのです。尊い愛をもらえるような人間ではなかったのです。つまり、人を愛する能力を著しく欠いていたのです。


 自分はたんなる発情機械であることに罪悪感を持ちながらも、まっとうな人間のふりをしてまで、生きる必要性があるのでしょうか。ある意味、死んでしまってもいいような気がするのです。


 こんな矛盾だらけの精神状態で、僕はずっとレイナさんを見ていました。彼女が見つめる先に君がいると知りながら。


 僕は君を羨望の眼差しで眺め、彼女を自分のものにしたいと決意することで、何とか生きる意味を見出していました。彼女と同じ大学に行くために、勉強しました。


 僕は君の友情に感謝しつつも、君が僕と同じ大学に進学しなかったことを喜んでいました。そして、運よく、彼女と同じ大学に行くことができました。




 そこまで読んだ本田は藤原の本性を知って、一旦読むのを止めた。自分が救いたいと思っていた人間の歪んだ心理に接したとき、本田はより一層彼のことが分からなくなった。端的に言って、本田は藤原をたんなる色情に駆られた愚かな男だと断じた。


 それと同時に、今まで深い後悔をしていたことが馬鹿らしくなってきた。一体、あの十五年はなんだったのか。本田は藤原本人がもしその場にいたら、殴っていたかもしれなかった。しかし、怒りぶつけるべき藤原本人はすでにあの世にいる。本田は藤原の自殺を卑怯だと罵りたくなった。


 だからこそ、本田は藤原が死んだ理由を知りたいという想いにもつき動かされた。しかし、藤原を尊敬していた本田にとって、彼の正体はあまりにも衝撃的なものだった。


 本田はただ慄然とするしかなかった。


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