ヒトノモノ その74 妬心
七十四
一日目のテストが終わると、午後の時間が空いた。自宅に帰る生徒もいれば、そのまま高校で自主学習をする生徒もいる。
僕は高校で勉強していくことにしました。僕の隣にはレイナさんもいました。そして、レイナさんの席から数えて、三つ前の席に君がいました。何の教科を勉強したのかは覚えていないのにもかかわらず、君の席だけは鮮明に覚えています。
「ちょっと、ここ教えてくれないか」
君は数学の問題を僕に尋ねました。僕はさっとその問題を見た瞬間に答えがひらめき、君に解き方を教えたはずです。君は納得して、席に戻りました。
レイナさんも君と同じように数学の問題を解いていました。しかし、彼女の手は止まっていて、解答を導くことができないように思われました。僕はその問題を盗み見しました。僕にとって、あまりにも簡単な問題でした。
レイナさんが僕に尋ねてくれたら、簡潔に解き方を教えられるはずでした。自分から話しかけることができない僕は、レイナさんの方から何かしらの行動をとってくれることを願いました。
しかし、レイナさんはわざわざ、君のところに行って、君に解き方を尋ねました。
「長岡くん、この問題、分かる?」
レイナさんの声を初めて聴いたような気がしました。
「ちょっと、分からない。藤原に聞くといいと思うなあ」
レイナさんは自分の席に戻ってきました。そして、シャーペンを持ちながら、考え事に耽っていました。折角、君が僕に尋ねた方がいいと助言をしたのにもかかわらず、どうして、彼女は僕に何も聞いてくれなかったのでしょう。
僕は彼女に嫌われているのではないか。こうして、失恋の痛手が頭の中を駆け巡るのでした。
もしかしたら、彼女は君のことが好きなのではないのか。君に話しかけたいだけであって、数学の問題などどうでもよかったのではないのか。すると、むくむくと君に対して、嫉妬に満ちたまなざしを向けざるをえません。
君は僕よりもかっこよくて、僕とは違って愛想もよくて、親切な男です。君が恋心を抱かれても、不思議なことはありません。もし君と立場を入れ替えることができたら、僕は君になりたいものです。
3時間くらい、そこで勉強したはずです。空には夕焼けが映えていました。
「藤原、まだ勉強していく?」
「まだしていくよ」
君が教室を出ると、レイナさんも一緒に教室を出ました。僕は一人教室に残りました。君たちが一緒に帰ったのかどうかは知りません。しかし、君たちの仲が良くなっていくのではないかと僕は危惧していました。




