ヒトノモノ その72 迷惑
七十二
寂しい心は常にその寂しさを何かによって、埋め合わせようとするものです。僕はふらりと何度も喫茶店に行きました。
喫茶店で会うと、スミレさんはいつもと同じように振る舞ってくれます。彼女は積極的に僕を友達として扱おうとしてくれたのです。
「好きって言われたのは嬉しいんだよ。でも、タイミングが悪かったかな。もう少し、工夫がいると言うかさあ。あと私、付き合っている人いるし」
「すみません」
「謝らなくてもいいよ」
真綿で首を絞められるような気分になりました。僕はスミレさんの優しさに見合うだけの友情を彼女に対して持つことができないのです。失恋という出来事があったにもかかわらず、僕は彼女の頬に口づけをしたくなってしまうのでした。
それと同時に、僕の知らないところで、スミレさんが男と一緒にたくさんの思い出をつくっているのかと思うと、吐き気とともに猛烈な嫉妬を感じずにはいられないのです。
叶わない恋に酔いしれるほど、僕は頭が悪い人間ではありませんでした。そのため、彼女のそばにいればいるほど、切ない気持ちにさせられるのです。
「スミレさんのカレシさんはどういう人なんですか?」
この一言はたんなる負け惜しみから出たものでした。
「いざ聞かれると困っちゃうなあ」
そう言いつつも、スミレさんは言いたくて仕方がないかのようでした。
「知りたいです。どういう人か」
「そばにいると落ち着く人って言えばいいのかな。なんだろう、変な気を遣わなくてもいい人かな。こんなんでいいかな」
「僕だとスミレさんは落ち着かないんですか?」
僕はそう言った瞬間にしまったと思いました。
「そんなことはないけど、なんだろうなあ。藤原くんって、いつも無理しているように見えるの。うまく言えないんだけど、私の前ですごく気を遣っているような感じがする」
スミレさんは奥歯に物が挟まっているかのような歯切れの悪い答え方をしました。
「僕はスミレさんのことが好きなんです。ずっとずっと、スミレさんのことばっかり、頭に浮かぶんです。スミレさんと一緒にいたいんです」
僕は涙を流しました。
「泣かないで。好きでいてくれるのは嬉しいけど、どうしても、気持ちの問題があって、言い方が悪いけど、藤原くんにドキドキしないの。友達としてしか無理なの」
僕は喫茶店で会うたびに、似たような泣き言でスミレさんに迷惑をかけました。そのうち、スミレさんは喫茶店に来なくなりました。




