ヒトノモノ その39 露顕
三十九
先生の二歩後ろを歩いた。隣で歩くのはなんだか申し訳ない気がした。けれども、うなじに目がいった。
「この近くにいいところある?」
先生は後ろを振り返りながら尋ねた。
「ラーメン屋がありますよ」
「そこでいいんじゃない」
ラーメン屋でテーブル席に座った。
「いいんですか?」
「何が?」
「こうやって、二人でいて」
どうして、先生は急に誘ってくれたのだろうか。何か先生に心境の変化があったのだろうか。もしかしたら、少しは僕を好いてくれているのだろうか。素直に喜んでみたくなった。
「別に。ケイタくんの方が二人でいていいの?」
「どういうことですか?」
「ケイタくん自身が一番分かっているはずよ」
先生は僕に謎をかけた。けれども、僕はその意味が分からなかった。追及しようにも出来なかった。
それでも、こうして二人きりでいることが嬉しかった。業務の範囲内を超えて、先生と食事をしているという少し悪い感じがなんとなく快いものだった。先生も同じくらい楽しそうだった。
「ケイタくんは、カノジョとデートしたことあるの?」
「ありますよ」
「どこで?」
「ええ」
急に聞かれたせいで、適当なことが思い浮かばなかった。
「一番の思い出の場所ないの?」
「美術館です」
僕ははぐらかした。
「インテリなカップルなのね」
「そうですね」
僕は少しだけかっこつけてみた。
「その娘、なんて名前なの?」
どうして、僕はそんなことを聞かれるのかと思った。僕は答えられなかった。
「ケイタくん、噓をついているでしょ」
「ついてませんよ」
「じゃあ、その娘、どこの高校に通っているの?」
声が出なくなった。
「ほら。いないんでしょ。もしかしたら、カノジョいるのかなと思ったけど、やっぱり、いないのね」
「いやいや」
反論しようとしたが、都合の良い言葉が思い浮かばなかった。
「いないんでしょ。別に怒っているわけじゃないよ。ちょっと、強がってみたかったんでしょ」
先生の言う通りだった。
「なんで、そう思ったんですか?」
「女のカンっていうヤツじゃない。ちゃんと言うと、女の子と食事しているだけで喜んでいるんだもん、こういう初めてなのかと思って。普通はそんなに分かりやすく喜ぶことないよ。だから、カノジョいないんだろうなあってね」
「すみません」
「何も謝ってほしいわけじゃないの。ただ、からかってみたかっただけよ」
何か意味があって、誘われたわけではなかった。ただ、先生の気まぐれに付き合わされただけだった。それでも、なんだか嬉しくなった。
「じゃあ、先生は付き合っている人、いるんですか?」
話の流れでつい聞いてしまった。
「いるよ。頭の中じゃなくて、本当に」
落ち込んでいる僕を見て、先生は笑っていた。シニカルな笑いだった。




