ヒトノモノ その20 虚勢
二十
「誰なんですか?」
「別に」
先生はそれ以上何も言おうとはしなかった。深く追及してはいけないことだけがはっきりした。
「今日もなんか夕食あるの?」
先生は話の流れを強引に変えようとした。
「ありますよ」
「食べたい」
母が肉じゃがをつくっていた。テーブルで、肉じゃがを食べた。
「うまいね」
「そうですね」
そう言ったきり、会話が続かなかった。僕はずっと電話の相手が気になった。わざわざ、電源を切ったのだから、それくらい相手と電話をしたくないのだ。
「さっきの電話」
そう言って、僕は言葉を濁した。
「あれねえ。デートの誘いみたいなもんかな。しつこくて、めんどうなの」
「大変ですね」
そう言って、相槌を打ちながら、僕は何とも言えない嫉妬を感じた。先生の媚態は僕以外の男を引き寄せるようだった。意識的であれ、無意識的であれ、先生はどんな男にとっても誘惑者に見えるようだった。
「まあね」
「先生って、モテるんですか?」
「そんなことないよ」
そう言いつつも、どこか勝者の自信があった。
「本当ですか?」
「ケイタくんはどうなの?」
論点をずらされた気がした。けれども、初めて名前を読んでもらった気がした。それだけでも、なんだか誇らしい気分になった。
「まあ」
とあいまいに答えようとした。
「カノジョいるの?」
そう尋ねつつ、先生はすでに答えを知っているような目をした。明らかに先生は僕を蔑んでいた。
「いますよ」
とっさに変な噓をついた。というのも、馬鹿にされたくなかったからだ。「どうせ、いないでしょ」と思っている先生の予想を覆してみたかった。
「本当?」
先生は声のトーンを下げ、疑わしいといった目で僕を見た。
「本当ですよ」
さらに噓を重ねた。
「頭の中にいるとかじゃなくて、実在する人?」
先生はどうしても、僕の言っていることを信じたくないみたいだった。
「実在しますよ」
「ケイタくんのこと、誤解していたみたい。女の子、苦手なのかなあと」
「いやいや」
強く否定した。
「もしかして、私のことが苦手なの?」
先生は冗談めかしてそう言った。
「そんなことないですよ」
「じゃあ、そのカノジョさんとどうやって出会ったの?」
いつも僕に興味を示さない先生の割には、積極的に話しかけてきたような気がした。
「そんな興味あるんですか?」
「男子校だから、どこで出会ったのかなあと思って」
「中学生の時に」
「その人のどういうところが好きなの?」
「恥ずかしいです」
「別に無理には聞かないけど」
そうは言っても、先生は楽しそうだった。




