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ヒトノモノ  作者: Kusakari
ケイタ パート2
18/120

ヒトノモノ その18 一人

十八

 「ちゃんと分かってるじゃない。よかった。教えた甲斐があって」

「白石先生、教え方がうまいからです」

「本当?」

「噓を言うわけないじゃないですか」

「嬉しいなあ」


 そこには一種の媚態があった。その媚態に僕は酔いしれた。

「先生って、美人ですね」

「よく言われる」

「そうなんですか」

「聞き飽きた」


 先生はけだるそうに視線を落として、もう一度僕を見た。

「そんなにじろじろ見ないでよ。さっさと解いて」

表面的にはぞんざいに見える言葉遣いの中にも、優しさが含まれていた。

「はい」

僕はしぶしぶ手を動かした。


 僕は大学の図書館にあるテーブルに一人で座っていた。他にもテーブルがあり、学生や高校生が勉強をしていた。他の人は真面目に勉強していた。僕は勉強をするためだと自分に言い聞かせて、この図書館にまで来てしまった。別に勉強をするために来たのではなかった。


 右を向くと大きな窓があった。その窓の奥には大学の建物があった。僕にはどの学部の建物なのかは分からなかった。その建物の玄関口から多くの学生が出てきた。僕の視力が悪いせいで、学生個人ごとの顔は見えなかった。けれども、この中に先生はいるのだろうか。それが気になって仕方がなかった。


 その時、僕は気づいた。先生のことが好きなんだ。恋をしてしまったんだ。なんだか、甘美な夢に酔いしれたような気がした。けれども、そのテーブルには僕しか座っていなかった。けれども、寂しい思いをせずに済んだ。


 その満足感のまま、僕は帰ることにした。すると、その時のことだった。

「あっ」

「白石先生」

「なんで?」

「勉強しに来たんです」

「そうなのね。高校から大学は近いもんね」

「はい」

「今から帰るの?」

「帰ります」

「もう帰っちゃうの?」

「まあ、勉強が終わったんで」

「ねえ」

先生は何かを言いかけた。

「どうしたんですか?」

「時間、空いてる?」

「まあ」

「一緒にご飯食べよう」

「いいんですか」

「いいよ。一人で食べても、寂しいから」


 そんな展開になればいいなあと思いながら、駅に向かって歩いていった。いつものような寂しさはどこかに消えていた。こんなにも心が満たされることがあるのか。生きているという実感を持つことができた。けれども、一人でいることに変わりはなかった。


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