ヒトノモノ その103 対決
百三
「嬉しいなあ。アカネちゃんから誘ってくれることなんてあるんだね」
「びっくりしたの?」
「アカネちゃんに嫌われていると思ったから」
「まあ、嫌いだけど」
そんな折、二人が座っているテーブルにボロネーゼとたらこスパゲッティが来た。アカネはフォークで綺麗にパスタを巻き、ボロネーゼを食べた。
「アカネちゃんは付き合っている人いるの?」
「いないよ」
「本当に?」
「いないもんはいないよ。そんな噓をつく必要あるの?」
「でも、モテるはずだよ」
「そう見えるの?」
「だって、美人じゃん」
「私の言ったことが心に残ってないのね」
「なんかあったっけ?」
「人を見た目で決めつけない方がいいって言ったはずよ」
「ああ。高校の時の話か。アカネちゃんのせいで恥ずかしい思いをしたけど、いい思い出だよ」
「過去を美化するタイプなのね」
「美化していないよ。いい思い出だったよ。なんかいつもより、とげとげしいね。もっと、可愛らしい感じのキャラだったような」
「そんなの演技に決まっているじゃない。そんなのも分からないの?男の人って、鈍感ね。私が『嬉しいなあ』とか言ってるの本心だと思うわけ?」
「へえ。これはこれで可愛いね。本当のアカネちゃんが見られて嬉しいよ」
「下らないわ。単刀直入に言うけど、あなた、サエと付き合っているの?」
「そうだね。サエちゃんって、いい娘だよ」
「サエがハイヒール履いてるのも、髪を染めたのもあなたが言ったからなの?」
「そうだね。一緒にハイヒールを買いに行ったし、美容室にも行ったね」
「サエに私の真似事をさせてるの?」
「真似事?そんなつもりはないよ」
「ほんとかしら?髪の色は私と同じだし、服も似ているし、ハイヒールは背を高く見せるためでしょ」
「その通りだよ。別にいいじゃないか。他人がどういう付き合い方をしているかなんて」
「ふざけないで。サエは初めて、恋人ができたって喜んでいたのよ。それなのに、あなた、本当にサエのことを大切にする気あるの?あなたみたいな人は信用に置けないわ」
「昔のことだろ。そんなの」
「じゃあ、なんでサエに私の真似事なんかさせるの?」
「オレは今でもアカネちゃんのことが好きだから。でも、アカネちゃんがオレのことを見てくれないから」
「本気で言ってるの?」
「うん。中学生の時に好きになったんだ。今でも覚えているよ。メガネを外して、綺麗になったアカネを。それ以来、ずっとアカネちゃんのことが好きなんだ。好きじゃなかったら、同じ大学になんか行かないよ」
「ここまで、気持ち悪い人だとは思わなかったわ。サエの前からいなくなって、サエに私の代わりなんてさせないで」
「確かに、サエちゃんじゃあ、アカネちゃんの代わりにはならないね。付き合ってみて、そう思ってたんだ。いいよ。アカネちゃんの言う通りにするよ。ああ、サエちゃんみたいな性格でアカネちゃんみたいに美人だったら、完璧なんだけど」
「ふざけないで。私の前からも消えて。これでもう会うことはないわ」
アカネはそう言うと、自分の代金だけ、テーブルに置いていなくなった。




