ヒトノモノ その101 模倣
百一
さらに三週間後のことだった。
「告白されたんだよ」
サエは目を輝かせていた。
「ほんと?」
「初めてなんだこういうの。ずっとふられてばっかりだったから、すごくすごく嬉しいの。それも、彼の家で」
アカネはサエがなんだか大人びて見えた。
「いいなあ」
アカネは羨ましいとは思わなかったが、サエを祝福したい気分になった。けれども、アカネはサエが次第に自分に似てくるのが怖かった。
「サエちゃんって、ヒール履くんだね」
サエはアカネと比べて、背が低かった。
「彼が選んでくれたの。わたしに似合うって言ってくれたし、それに買ってくれたんだよ。優しいんだよ」
「よかったね。そんな人に巡り会えて」
「アカネちゃんもいい人、見つけたら」
「私がそういうの興味ないの」
サエはアカネと違って、恋人のいる自分を誇ろうとした。サエはアカネに勝った気になった。
けれども、サエには不安の種があった。
「サエちゃんの友達って、美人だよね」
サエの恋人はドイツ語の授業で知り合った鹿島という男だった。鹿島はサエに会うたびに、アカネのことを褒めそやした。それも、彼はサエに告白した後でも同様にアカネを褒めるのだった。
サエは鹿島がどっかへ行ってしまうことを恐れていた。そのため、サエはアカネに似るようにメイクをするようになった。
「アカネさんみたいに可愛いね」
初めのうち、サエはこの一言を褒め言葉として受け取っていた。けれども、次第にサエは違和感を覚えるようになった。
鹿島とショッピングをしている時だった。
「サエちゃん、ハイヒール、履いてみてよ。サエちゃんに似合うと思うよ」
サエは歩きづらいハイヒールを履く気にはなれなかった。けれども、鹿島に気に入られたいばかりにサエはハイヒールを何足か履いた。
「このハイヒール、オレが買うよ」
サエは自分に似合っているとは思わなかった。
「ありがとう」
サエは感謝の言葉を言うしかなかった。
「次は服を買おう」
「うん」
サエは鹿島が言う通りに服を着た。まるで、着せ替え人形にでもなったような気分だった。
「可愛いよ。サエちゃん」
サエは可愛いという言葉に弱かった。というのも、今まで可愛いと言われたことがなかったからである。「可愛い」と言われると、自分が女の子として認められているような気がした。
けれども、彼が買った服はアカネが着そうな服だった。なんだか、自分はアカネの代わりをさせられているような気がした。それでも、恋人のいない惨めさを味わうよりは幾分かマシだった。




