第2話 アクア・ドール
アクア・ドール
これは僕が僕自身をモチーフに作った、ゴーレムを作る魔術だ。
ただ、僕の魔力は水属性で、出力も人並みだ。だから、純粋な性能では一般的なゴーレムには及ばない。何なら僕より弱い。
さらに、ゴーレムが形を保つのに必要な核がない。そのため、アクアの寿命は長くて1日。戦闘を行えば、それだけ寿命も短くなる。
それでも、こいつは欠点を補って余りあるほど使い勝手がいい。
まず、核がないからか形を自在に変えられるし、明確な弱点もない。
さらに、与えた一回分の魔力をアクアの内部で自由に分割し運用できる。これ自体は僕にもできるし、なんなら僕の方が精度も威力も上ではある。
それでも、単純に「手数」と「戦術」の幅が増える。
そして何より、本来ゴーレムには存在しない「人格」も有している。
ちょっとうるさい性格なのは、まあご愛嬌だな。
アクア「どうです!かっこいいでしょう!」
ジャック「悪くない。」
実際結構いい感じだ。戦闘ではそこまで意味はないけど、気分を盛り上げるにはちょうどいい。
ジャック「日課に戻るよ。」
アクア「はあい。今日は何番でやります?」
ジャック「昨日は6番だったからね。2番で。対近接攻撃ね。」
アクア「1番はしないんです?」
ジャック「しないよ。あれは大して強くない。」
アクア「うーん。正論。」
ジャック「というわけで二番だ。やってくれ。」
アクア「オーケーマスター!」
アクアが腰をひねり、左手を右前方に突き出す。左手に魔術で作られたガジェットが現れる。同時に腰にベルトが現れる。
アクア「変身!」
ガジェットの2のスイッチが押される。
アクアクロスガジェット「TWO!」
そしてベルトに装着される。
アクアクロスガジェット「PUT ON Change Hornet!」
青いライダースーツのような素体がアクアの体を覆い、黄色を基調とした蜂をモチーフにした装甲と仮面が加わる。
アクアクロス・ホーネットフォーム。これが今のあいつの状態だ。攻撃や瞬発力に重きを置いた形態で、僕が変身すれば、多分その辺の鉄格子くらいなら簡単に殴り壊せる。まぁ、アクア自身で変身した場合だと、素の僕よりわずかに攻撃力が強いくらいだね。
アクア「さーて!今日こそぎゃふんと言わせてやります!」
ジャック「昨日も言ってたね?」
アクア「あ!団長さんだ!」
ジャック「え?」(遠征に行ってたんじゃ?)
ジャックの視線が入口に向く。
アクア(しめた!この一瞬で決着をつける!勝てばよかろうなのだぁぁぁ!)
瞬間、アクアが踏み込む。
不意打ちを仕掛け、全力でジャックの顔面を狙い放った一撃は、加速しきる前にしっかり受け止められた。
ジャック「甘いね。」
アクア「っ」
その後の顔を狙ったラッシュ、一呼吸おいての回し蹴り、受けられた足を軸にした後ろ蹴りをすべて止められた。
2番の実践の目的は、近接戦で攻撃力の高い相手を想定したものだ。
ジャックは攻撃を受け、受け流し、反撃する。
一方、アクアにとってはジャックの守りを崩す実践になっている。
そしてもう一つ。
ジャックにとってこの実践は、戦闘時に「油断しない」ためのものでもあった。
互いに不意打ち上等、勝てばいい。他者との試合ではやりづらい下劣な手法も、相手がアクアなら、互いになら許される。ジャックの最終的な目的は実践的な強さなのだから。
ジャック「遅い!」
ジャックの攻撃がアクアの足を砕く。
アクアは砕かれた足を即座に再構成、そして反撃に出るが冷静に対処される。
アクア「くっ」(まだ届かない!なら!)
距離を取り、腰のバックルを回して押し込む。
アクアクロスガジェット「Hyper Cast Off! Change HighPower Hornet!」
アクア(これは一分しか持たない!すぐに決着をつける!)
アクアの手足に蒸気を噴射する機構が追加され、仮面の角はよりゴツくなる。体内の身体強化魔術が一気に活性化し戦闘能力が跳ね上がる。
アクア「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
再びジャックにラッシュを仕掛ける。水蒸気の噴射も利用して変則的に叩き込む。
それでもジャックには届かない。ジャックはしっかりと目でとらえ、静かに冷静に対処していた。
決してアクアの動きが遅いわけではない。
ジャックは攻撃の発生を観察し、相手の癖や動きから次の動きを予測していた。だから多少の性能差があろうと、最小限の動きで対処していた。
そして激しくも一方的な戦闘は1分が経過しようとしていた。
アクア(マズイ!もう時間がない!賭けるしか!無い!)
ガジェットのボタンに手を伸ばし、順に押す。
アクアクロスガジェット「ONE!TWO!THREE!」
アクア「くらえマスター!ハイパースティング!」
アクアクロスガジェット「Hornet Sting!」
ガジェットから魔力が迸り、頭部の仮面で収束・増幅される。
アクアは跳んだ。
最高点に達した瞬間に手足の蒸気機構が一気に稼働する。
同時に増幅された魔力が足に集中する。
アクアは全力で魔力の迸る飛び蹴りを放つ。
ジャックは、アクアがこうすることを読んでいたし、この奥の手に対して正しい対処法、すなわち、躱すか魔力操作で逆に魔力を逆流させるというカウンターを用意していた。
しかし
ジャック「ふん!」
アクア(馬鹿な!?正面から!?)
ジャック「オラァ!」
迫ってきた蹴りを両腕で受け、正面から弾き飛ばす。この時点でアクアの制限時間が切れた。もう勝ち目はない。
しかし、食らった魔力はジャックの体内で迸り、無情にその血肉を焼き焦がす・・・はずだった。
ジャック「っふーーー」
アクア「マスター?」
ジャック「問題なし。食らった魔力は魔力操作でダメージを軽減、そして食らった魔力を使って、こんなの作ってみた。」
小さな青い石を投げ渡す。
アクア「これは・・・!?」
アクア「魔石じゃあないですか!?作ったんですか!?」
ジャック「魔石を人の魔力から人工的に作る技術自体は、もう確立されているからね。それに、その魔石には大した力はないよ。所詮僕の魔力、それに一発分にも満たないしね。」
アクア「技術としてって、その技術はこんな実戦でできることじゃないじゃないですか!」
ジャック「実戦で実践ってね。」
アクア「は?」
ジャック「ごめん。言いたかっただけ。マジごめん。」
アクア「・・・あなたはそうやって前に進んでいきますね。」
ジャック「君に追いつかれたくないからね。」
かつてはアクアのほうが強かった。ジャックが10歳くらいまでは。
身体が鍛錬についてこなかった頃は、不意打ちや卑怯な手段を使ってどうにか食らいついていた。
それでも鍛錬を続けた。
肉体が成長し、経験を積み重ねるにつれて、少しずつ実力の差が縮まっていった。
今では正面から戦っても勝てるようになっていた。
そんな彼だから、努力による成長のすさまじさを知っている。
そして、自分にできるのだからだれでもやればできると思っている。
それは、アクアに対しても例外ではなかった。
ジャック「さてと!」
ジャックはいつもの調子で言った。
ジャック「帰ろうか!」




