↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

グッドペット

朝。


俺は教会の裏庭にいた。


目の前にはグラヴァル。


そして。


地面には一本の木。


「……」


俺は木を見た。


グラヴァルを見る。


もう一度、木を見る。


「お前が持ってきたの?」


「グル」


「そうか」


昨日。


俺はグラヴァルに、犬がやるような遊びを教えてみようと思った。


投げたものを持ってくる。


いわゆる、取ってこーいというやつだ。


ただ。


最初に投げたのは木の枝だった。


グラヴァルは嬉しそうに走っていった。


そして。


戻ってきた。


口に。


木を一本くわえて。


「……」


どう考えても枝ではない。


「いや、でかすぎンだろ」


グラヴァルは俺の前に木を置いた。


「グル」


「いや、持ってきたのは偉いけど」


俺は木を見上げる。


太さは俺の腕より太い。


長さは五メートルくらいある。


「これは枝じゃない」


「グル?」


「木だ」


グラヴァルが首を傾げる。


「……まあいいか」


俺は木を持ち上げようとした。


重い。


「ちょっと待って」


グラヴァルが俺を見る。


「これ、俺が投げるの?」


「グル」


「お前はできるの?」


グラヴァルが木を咥え、軽々と持ち上げて投げる。


「……すごいな」


やっぱりS級魔獣だ。


俺は木を見た。


「でも、これで遊ぶのは危ないな」


グラヴァルが少し残念そうにする。


「別のにしよう」


俺は辺りを見回した。


小さな石を拾う。


「これならどうだ?」


グラヴァルを見る。


「いくぞ」


俺は石を投げた。


グラヴァルが走る。


一瞬で消えた。


「……速」


次の瞬間。


グラヴァルが戻ってきた。


口には。


石。


「おお」


俺は受け取ろうと手を伸ばす。


グラヴァルが石を落とす。


その瞬間。


地面が揺れた。


「……」


石が。


直径3メートルくらいある。


「お前」


「グル」


「これ、俺が投げた石じゃないよな?」


グラヴァルは首を傾げた。


「……」


たぶん。


俺が投げた石を持ってきたつもりなんだろう。


途中で別の石を見つけて。


こっちの方がいいと思ったのかもしれない。


「まあ……いいか」


俺はその石を撫でた。


「よく持ってきたな」


グラヴァルの尻尾が揺れる。


「よし」


◆


次は。


「待て」


これを教える。


俺はグラヴァルを少し離れた場所に座らせた。


「待て」


グラヴァルが座る。


「そのままな」


俺は歩く。


一歩。


二歩。


三歩。


振り返る。


グラヴァルは動かない。


「おお」


さらに歩く。


十歩。


二十歩。


それでも動かない。


「賢いな」


俺はそのまま教会の裏手まで歩いた。


角を曲がる。


姿が見えなくなる。


「……」


少し待つ。


戻る。


グラヴァルは。


まだ座っていた。


「お前、ちゃんと待てるんだな」


「グル」


「すごいじゃん」


頭を撫でる。


グラヴァルは嬉しそうに目を細める。


「よし」


尻尾が揺れる。


「……じゃあ、次」


俺は少し考えた。


「伏せ」


グラヴァルが伏せる。


「おすわり」


グラヴァルが座る。


「待て」


待つ。


「おいで」


来る。


「……」


完璧だった。


「お前、めちゃくちゃ賢いな」


グラヴァルが胸を張る。


「いや、すごいよ」


俺は本気で感心した。


「普通の犬より覚えるの早いんじゃないか?」


「グル」


「……犬じゃないけど」


「グル?」


「なんでもない」


◆


俺は調子に乗った。


「じゃあ、もう一個教えるか」


グラヴァルがこちらを見る。


「回れ」


グラヴァルが立ち上がる。


ゆっくり回る。


「おお」


もう一回。


「回れ」


グラヴァルが回る。


三回。


四回。


五回。


「待て待て待て」


グラヴァルが止まる。


「回りすぎ」


「グル?」


「いや、そんなにやらなくていい」


俺は笑った。


「一回でいいから」


グラヴァルが首を傾げる。


「……分かった?」


「グル」


「よし」


グラヴァルが嬉しそうに尻尾を振る。


「お前、本当に言葉分かってるんじゃないか?」


グラヴァルが俺を見る。


「……まあ、俺の言ってること全部分かってるなら便利だけどな」


「グル」


「今日疲れたとか」


「グル」


「人が多いと疲れるとか」


「グル」


「神父って思ったより大変だとか」


「グル」


「……」


俺は少し黙った。


「それまで分かってたら怖いな」


グラヴァルが俺の顔を見る。


「……まあ、お前ならいいか」


頭を撫でる。


◆


昼過ぎ。


俺は自室に戻った。


グラヴァルもついてくる。


「なあ」


「グル」


「お前、俺がどこ行ってもついてくるけど」


「グル」


「……別に嫌じゃないけどさ」


椅子に座る。


グラヴァルが足元に伏せる。


「そういや」


俺はふと思い出した。


「ゲームでは、お前ってこんなに人懐っこかったっけ?」


もちろん。


答えは返ってこない。


「まあ、ゲームと現実じゃ違うか」


グラヴァルの頭を撫でる。


「でも、こうして見ると普通のペットみたいだな」


「グル」


「……見た目は全然普通じゃないけど」


グラヴァルが尻尾を振る。


「それにしても」


俺はグラヴァルを見る。


「お前、俺のことどう思ってるんだろうな」


グラヴァルは何も言わない。


ただ。


俺の手に頭を押しつけてくる。


「……」


俺は少し笑った。


「まあ、いいか」


そのまま頭を撫でる。


「俺も、お前のこと結構気に入ってるし」


「グル」


「……なんか喋れたら面白いのにな」


グラヴァルが顔を上げる。


「グル」


「いや、それじゃ分からん」


「グル」


「それも分からん」


「グル」


「だから分からないって」


俺は笑った。


◆


夕方。


俺は少し昼寝をすることにした。


「グラヴァル」


「グル」


「俺、ちょっと寝るから」


グラヴァルがこちらを見る。


「お前も好きにしてていいぞ」


「グル」


俺はベッドに横になる。


目を閉じる。


静かだ。


「……」


しばらくして。


眠りに落ちる直前。


ベッドが少し揺れた。


目を開ける。


グラヴァルが床から立ち上がっている。


「どうした?」


グラヴァルはベッドの横に座った。


「……そこで寝るの?」


「グル」


「まあ、いいけど」


俺は目を閉じた。


「おやすみ」


「グル」


今度こそ眠る。


◆


夜。


俺は目を覚ました。


暗い部屋。


「……」


まだ眠い。


隣を見る。


グラヴァルがいる。


「……お前」


グラヴァルは起きている。


金色の目が、暗闇の中で静かに光っていた。


「ずっとそこにいたの?」


「グル」


「……そっか」


俺は少しだけ笑う。


「もはや番犬だな」


グラヴァルが尻尾を動かす。


「でも」


俺は目を閉じる。


「お前がいるなら、安心して寝られるか」


「グル」


「じゃあ、頼むわ」


グラヴァルの頭を軽く撫でる。


「おやすみ」


「グル」


俺は再び目を閉じた。


S級魔獣。


王国でも恐れられる存在。


そんなグラヴァルが。


その夜はただ。


俺の隣で静かに眠っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。