銀剣のミレア
「なあ、ミレア」
「ん?」
王都の冒険者ギルド。
依頼帰りの冒険者たちが、ミレアを囲んでいた。
「本当に、あの神父様と昔から知り合いなのか?」
「うん」
ミレアはあっさり頷いた。
「教会で一緒に育ったから」
「じゃあ聞かせてくれよ」
「何を?」
「神父様の昔の話だよ」
「昔の?」
「そうそう」
別の冒険者が身を乗り出す。
「子供の頃から、あんなに強かったのか?」
「うん」
即答だった。
「昔から強かったよ」
「どれくらい?」
ミレアは少し考える。
「私より強かった」
「……」
「ずっと」
「ずっと?」
「うん」
冒険者たちの顔が引きつる。
ミレアは現在、S級冒険者。
王都でも知らない者はいないほどの実力者だ。
そのミレアが。
「子供の頃から勝てなかったのか?」
「一度も」
「……」
「剣も、走るのも、木登りも」
ミレアは指を折っていく。
「腕相撲も、石投げも」
「石投げまで?」
「うん」
「じゃあ、何なら勝てたんだ?」
「じゃんけん」
「おお!」
「一回だけ」
「……」
「それもたぶん運」
ミレアは楽しそうに笑った。
◆
「でもさ」
一人の冒険者が首を傾げる。
「昔からそんなに強かったんなら、なんで神父になったんだ?」
冒険者は困ったように頭を掻く。
「魔獣を素手で止める神父ってなんだ??」
「ああ」
「未来が見えるとか、神の声が聞こえるとか、そういう噂まである」
「それは違うよ」
ミレアが苦笑する。
「未来なんて見えないと思う」
「思う?」
「本人がそう言ってるから」
「じゃあ、何であんなに何でも分かるんだ?」
ミレアは少し考える。
「昔から、アベルは考えてることをそのまま言うだけだったよ」
「それだけ?」
「うん」
「……それで全部当たるのか?」
「そういうところが、アベルなんじゃないかな」
ミレアは笑った。
「昔から変わらないよ」
◆
「なあ、ミレア」
「何?」
「お前、あいつと戦ったことあるんだろ?」
「あるよ」
「最後に戦ったのは?」
「ずいぶん前」
「じゃあ」
冒険者が笑う。
「今なら勝てるんじゃないか?」
ミレアは少しだけ目を細めた。
「どうかな」
「S級だぞ?」
「そうだね」
「昔とは違うだろ」
「うん」
ミレアは剣に手を置いた。
「だから」
口元に笑みが浮かぶ。
「一度、確かめてみたい」
◆
その日の夕方。
教会の中庭。
俺はグラヴァルの横で本を読んでいた。
「神父様」
声がする。
顔を上げる。
ミレアが立っていた。
「どうした」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「何だ」
ミレアは笑う。
「久しぶりに、勝負しない?」
俺は本を閉じた。
「……今?」
「今」
「急だな」
「昔から急だったでしょ?」
「そうだったか?」
「そうだよ」
ミレアが剣を抜く。
銀色の刃が、夕日を反射した。
「今度こそ勝ちたいんだ」
俺は立ち上がる。
「そうか」
ミレアが嬉しそうに笑う。
「受けてくれる?」
「ああ」
俺も中庭の中央へ歩く。
「ただし」
「うん?」
「結果は変わらない」
「……やっぱり、そう言うんだ」
ミレアは楽しそうに笑った。
グラヴァルが少し離れた場所から、俺たちを見ている。
俺は構える。
久しぶりの勝負だった。




