⑨ たった一つの冴えたやり方
バステトはまず、争っている2つの部族の、長らしき者に目を付けた。そして紛争の真っ只中に身を踊らせ、その二人に対して、殺さないように手加減して、軽く一撃ずつ、ローキックを入れた。
突然乱入して来た甲冑姿の黒猫に、最初こそ面食らった二人の長だったが、直ぐに怒りに任せて、バステトに挑み掛かって来た。(よしよし、ソレでイイぞ。)彼女は内心ほくそ笑んだ。
やがてそれぞれの部族も長に従い、そこに居た全ての爬虫人類が、バステトを敵として認識し、半ば協力して、彼女に挑み掛かって来たのだ。全て彼女の計算通りである。
ついにバステトは、200名ほどの爬虫人類に、360度逃げ場無く、すっかり取り囲まれてしまった。そして、片方の部族の長が語り出した。
「場違いな黒猫め!一体何をしに来やがった?」
「アタシ?アタシはアナタたちの、"これからの人生"を救いに来たのよ。」
「何だとぉ!?」
「もしアタシが、アナタたち全員に勝ったら、部族間の今後の事は、アタシに任せなさい。でもアナタたちが勝ったら、どんな要求でも聞き入れてあげるわよ?」
「……面白い。受けて立とうではないか。」
「でも、御頭、コイツはあの、バステトですぜ?」
横からナンバー2らしき者が口を挟んだ。
「うるさい!ワシのヤル事に、いちいち口出しするな!」長が怒った。
「イイわね?じゃあ、どこからでも、掛かってらっしゃい!」と、余裕のバステト。するとすぐに、二人の長が、同時に槍とハンマーで、攻撃を開始した。
それに対して彼女は、それぞれ右腕と左脚たけで応戦し、適当に何度かあしらった後、順番に二人の後ろに周り込んで、素早く剣の柄で、それぞれの首の付け根を、トン、トンて突いてやった。
すると呆気なく、二人とも、気を失ってしまったのである。それは正に、赤子の手を捻るように、簡単な決着だった。その様子を見ていた2つの部族のメンバーは、全員その場に平伏した。
「……そのオリハルコンの剣。やはり、バステト様でしたか。」先程のナンバー2が、顔だけを上げてそう言った。
「あら、アナタは、少しは学が有るようね?」彼女がそんな風に答える。この世界でもまだ、古の言い伝えは、有効なようだった。
「じゃあ、アナタに任務を与えるわ。この二人の意識が回復したら、"直ちに部族間の争いを辞めて、皆で協力して、平和な世の中を作りなさい"というのが、バステトの命令だと、伝えなさい!他のみんなも、解ったわね?」
するとその場の皆は、「ははーっ!」と更に深く平伏したのである。その様子はまるで、"暴れん坊将軍"か"水戸黄門"の、一場面のようだった。もちろん彼女には、そんな辺境の、ニンゲン世界のテレビ番組の知識など、無い……はずである(?)




