⑦ 猫王子と由理子
「……じゃあアタシ、そろそろ帰るわね。コーヒーご馳走様。」とバステト。
「今日はもう、店じまいなの?」
さり気なく確認する由理子。
「ううん、一度帰ってシャワーを浴びて、もうひと案件、片付けに行って来るわ。さっきのアラハバキじゃ、歯応え無さすぎだもの。」
「流石は、古代エジプト神々屈指の戦闘力ね?」
「どこかの誰かさんが、全然かまってくれないから、アタシ、ヒマなのよ。」
黒猫神はそう言って、皮肉な笑みを顔に浮かべると、左腕のデバイスを操作して、その場から消えてしまった。
それからしばらくすると、バーカウンターの陰から、そっと顔を覗かせて、ゆっくりと姿を現した白猫が居たのである。
「由理子、彼女はもう、帰ったのかな?」
それは白猫王子の、ミケーネだった。
「自分の奥さん相手に、何だって、そんなにビクビクしてるのよ?もっと堂々と、"ちょっと遊びに来てます"って、言えばイイのに……。」たしなめる由理子。
「だって彼女、キョーレツに嫉妬深いんだよ。」
「それならもう、ここに来るのを、諦めたら?」
「イヤ、でも、由理子に会って癒されたいし……。」
彼女の博愛のチカラは、伊達では無いのである。
「もう……煮え切らないわねえ。ハッキリしない男はモテないわよ?」
「あ、ジェンダー差別だ。」
「まだ、コッチは西暦2000年だから、大丈夫なの!」
「あれっ?確か1999年に、"男女共同参画社会基本法"っていうのが、成立したんじゃなかったっけ?」
「我が国の男どもは、考え方が遅れているから、男女平等の概念が世の中に定着するのに、あと20年以上かかるのよ!」
「……そんな、まるで見て来たような事を、言ったりして。」
「見て来たわよ。何しろここには、タイムマシンが5台も有るんですからね!」
「ああ、そうだったね。しかも、そのうちの1台は、別の並行世界にも行けるんだった……。」
「そうよ。おかげ様でね!」
「そう。ソレは、ボクのウッカリがきっかけだったね。」
ミケーネはそう言ったきり、黙ってしまった。自己嫌悪に陥ったのだ。
ちょっと前に、とある事件に巻き込まれたせいで、由理子と一緒に乗っていた時空旅行機が、破損した。それを、サン・ジェルマン伯爵に直してもらった時に、大事な時空転位のカラクリが、バレてしまったのだった。
「ゴメンなさい。ちょっと興奮して、言い過ぎちゃったわね?私も、鷹志が伯爵と一緒になって、研究に没頭して、ちっともかまってくれないから、少しイライラしてるのかも……。」
「……もう、今日は帰るよ。ウチで大人しく、勇ましい妻の帰りを待つ事にする。でも、また近いうちに、必ず顔を出すからね!」
「それがイイわね。バステト嬢によろしくね。」
こうして、白猫王子ミケーネは、自分の惑星の城に、帰って行ったのである。




