⑥ コーヒーブレイク
さて、バステトがひと暴れして戻って来た時は、必ず立ち寄る事にしている場所が有る。
それは惑星ガイア――つまり地球の、日本国内に有る、とあるテレビ塔の、亜空間レストランなのである。
そこに勤務しているニンゲンの娘が、先程から何度も名前の出ている、"由理子"なのだった。
彼女の髪はいつも赤く、メイド服を着ている。ニンゲンの年齢の数え方で、確か29歳だったはずだ。
その年齢のニンゲンが、普段着のようにメイド服を着ると、"痛いヒト"と呼ばれるらしい。そんな訳で「誰が何時、何処で、どんな衣装を着ようが、自由よねえ?」というのが、最近の彼女の口癖になっているのだった。
「あら黒猫嬢、いらっしゃい。何時ものアメリカンでイイかしら?」
気さくに声をかける由理子。かれこれもう、長い付き合いなのである。無論、知り合うきっかけは、パートナーの白猫王子なのだが……。
イケナイイケナイ、また要らぬ事を思い出しそうに……。バステトは我に返った。
「ありがとう。ホットで出してちょうだい。」
「今日も当てもなく、正義の味方の旅だったの?」
「まあ、そんな所……ちゃんと、誰の命も奪わなかったわよ。」
「立派ね。大いなるチカラを持つ者には、大いなる責任が有る。アナタの場合、強大なそれをセーブするのに苦労するから、大変よね?」
「それ、マー◯ルコミックスのスパイ◯ーマンのセリフでしょ?蜘蛛ニンゲンなんて、ゾッとするけど?」
「わかるぅ〜。博愛主義の私も、虫だけはチョット……ね?」
「彼氏の正体が、スカラベ神だったのに?」
「もう、ソレは言わない約束でしょ!」
由理子は生まれながらに、様々な動物たちと、心の交流を持って来た。つまりソレが、彼女の才能――一種の超能力―――なのである。
イカやタコなどの頭足類や、果てはクラゲまでその守備範囲なのだが、虫の仲間とは、どうにも仲良くなれないのだった。
「因みにまた、アラハバキが暗躍していたのよ。」
「あらあら、しつこい連中ね。アナタもよく我慢したわね?」
「由理子と約束したからね。殺してもイイ命なんて、この世に一つも無いって、初めて言われた時は、眼から鱗が落ちる思いだったわ。」
「あの時の私ったら、古代エジプトの神様に向かって、偉そうな事を言ったわね……反省してるわ。穴が有ったら入りたい気分よ。」
「何時も、素直で率直な気持ちを表現するのが、アナタの美点なのよ。むしろソレは誇るべき。」
「……ありがとう。そう言ってもらえると、救われる気分よ。これからも仲良くしてね?」
由理子は屈託の無い笑顔で、そう言った。




