③ 雪男VS黒猫神
「さてと……。」
黒猫バステト神は、剣の構えを、青眼から右下段に変えながら考える。
(コイツが先祖返りしたのには、何か理由が有るはず……ソレが精神的な疾患やストレスなら、アタシの出る幕は無いけど……?)
考えがまとまらないまま、彼女は下段から斜め上に向かって、逆袈裟がけに剣撃を繰り出す。
しかし、雪男はソレを、右前脚の鋭い爪で、難なく弾き跳ばした。
「オリハルコンより硬い爪なんて……楽しませてくれるじゃないの!」バステトは、うっかり戦士としての血が騒いでしまう。
その後も、雪男の左右の前腕から繰り出される、カギ爪の攻撃と、黒猫神の素早い剣撃の応酬が続けられたが、ソレはなかなかイイ勝負に見えた……もちろん、彼女がちょっとだけ、手を抜いているのだが……。
それは以前、ニンゲンの由理子とした約束を、今でも守っているからだった。「いい、バステト。無駄な殺生をしない事も、神としての大切な品格なのよ!」かつて地下世界で、大量の大蛇たちを殺めた時にも、彼女にそんな風に叱られたものだ。
"何時でも、何処でも、相手が何であれ、まず愛するべき"という、博愛の精神を信条とし、実際に体現している、あの娘の言葉は、決してキレイ事では無く、何故か心に刺さるのだった。
流石は、"我が夫の心を奪った"だけの事は有る。
彼女は、そんな要らぬ事まで思い出して、戦闘中なのに、うっかり苦笑いしてしまう。
「イケナイ、イケナイ。集中しなくては。」
彼女はまるで、弁慶と闘う牛若丸のように、空中でヒラリと一回転すると、雪男の背後に周った。
すると、雪男の首スジに、何やら見覚えのあるデザインのデバイスが、まるで虫のように取り憑いているのが目に入ったのだ。
「……なるほどね。」
バステトはソレをひと目見て、全てのカラクリを理解した。「また、アイツらの仕業か……何処までもしつこいヤツラだこと。」
アイツらとは、爬虫類族の一派、アラハバキの事である。かつては、ハダカ猿族を改造して、ニンゲンを造ったり、昆虫のDNAをいじって、ベルゼブブを生み出したりした連中なのだ。その度に、惑星一つを失いかねないような、トラブルになっていた。
「今度はきっと、辺境の寒い惑星でも、コッソリ征服するつもりなんだわ。そのために必要な奴隷作りの、お試しがコレなのね。まったく、迷惑な話だわ。」
そう言いながら彼女は、おもむろに空中から剣を繰り出し、その首スジのデバイスを突いて、アッと言う間に、粉々に砕いてしまったのである。




