① 小熊猫の惑星
今日の出現先は、二足歩行の生き物たちの世界だった。(なかなか幸先は良さそうだ。)バステトはそう思った。運が悪いと、以前のように、全く意思の疎通が不可能な、ゾウリムシが支配する惑星に出てしまうからだ。
彼女の記憶に間違い無ければ、ここの住人たちは、確かレッサーパンダとかいう名の、生き物だった筈だ。ヤツラは皆、元を正せば雪女ならぬ雪男。
雪女たちの方は、ヒトの形を保つ事が出来たというのに、雪男の姿はことごとくクマに変質し、大熊猫になり、やがて、寒い環境の中で体温を保つためにカラダを小型化して、最後には、レッサーパンダになったという伝説を聞いた事がある。
えっ、そんな話は初耳だって?
コレはキミの居る世界線から、少しズレた並行宇宙の話だから、イイのさ。
そんな、誰に言っているのか解らないような言い訳を、時々呟いたりするバステトであった。
どうやら同じ芸当を、アメリカの〇ーベルコミックスのデッ〇プールとかいうキャラクターも、やれるらしい。フィクションのキャラクターが、リアルの壁を易々と乗り超えて来るのだ。恐ろしい話である。
今や彼女は、本当の意味で自由なのだ。
さて先程、"行き当たりばったりの旅"とは言ったが、せめて最低限ソレが無駄足にならないように、SOSめいた信号のようなモノは、キャッチできるようにはしておいた。ソレは、或る時は明確な信号、また或る時は悲痛な叫びや泣き声、そして或る時はテレパシーによるモノだった。
そして今回は、問題を抱えた当事者自身の、嘆き声をキャッチしたのである。
彼女は時空旅行機から降りると、その問題の当事者の前に立った。
「あらあら、コレはまた、大変そうね?」バステトは思わず呟いた。
目の前に居たそれは、ニンゲンの世界線で、イエティとかサスカッチとか呼ばれている、いわゆる雪男だったのだ。
身の丈およそ3mといったところか?
見た目はすっかり筋骨隆々なカラダの、凶暴な白いゴリラだ。
つまりコレは、原因不明の"先祖返り"現象だった。
伝わって来る心の波動は悲しみに溢れているのに、聞こえてくるのは「グオオオーッ!」という恐ろし気な唸り声だ。多分、自分で自分の感情と身体のコントロールをする事が、困難になっているのだ。
仲間のレッサーパンダたちは恐れをなして、皆、散り散りばらばらに逃げ出したせいで、コイツはすっかり独りボッチだ。
バステトは背負っていたオリハルコンの剣を抜いて、ゆっくりと構える。
コイツをバケモノとして切り捨てるのは簡単な事だが、さて、どうしたものか?




