㉙ 彼女の正義感
「アタシはね……。」
敵の隊長に、トドメを刺しながら、バステトは言葉を続ける。
「……アンタのさっきのセリフの中の、"妙な正義感"とか、ソレを"弱い心"と言ってみたりとか……そういう所が気に入らないんだよ!……って、もう、聞こえてないかぁ。」
彼女はそう言いながら、残った敵の首を燃やした。
すっかり仕事をやり終えた黒猫神は、鰐王の方を振り返って言った。「ゴメンなさい。つい……アタシ、余計な事をしたかしら?」
「いや、正直、体内の解毒には、時間がかかりそうだから、その……ありがとう。助かったよ。」
セベクはそう言った。
「あらっ?珍しく素直なトカゲちゃん。アタシ、貴方のそういう所、好きよ。」
「何だよ、また。その呼び方は、ヤメロっていつも言っているだろう?」
「え〜?命の恩人に向かって、その態度は、無いんじゃない?」
「え〜い、前言撤回!二度と来るな!」
「また、そんな事言ってぇ。アタシの事、好きなクセに!」
「イイからもう、帰れ!」
「ハイ、ハイ。……ああ、そうそう、この後、アタシ、例の亜空間レストランに行くから、もし逢いたくなったら、遠慮無くいらっしゃいね?」
「分かった、分かった。」
次第に元気を取り戻す、セベクの様子を見て、満足したバステトは、その場から姿を消した。
「……オレもいよいよ、ヤキがまわったかな?」
彼女の消えた虚空を眺めながら、鰐王は呟いた。
時空旅行機に戻って来た黒猫神は、西暦2001年4月1日の、名護屋テレビ塔の地下駐車場を目指し、座標を入力した……そして、時空転位ボタンを押したのである。
一方、そのテレビ塔の亜空間レストランでは、今日も赤い髪にメイド姿の由理子が、バーカウンターで暇そうにしていた。
パートナーの鷹志が、サン・ジェルマン伯爵とともに、地下の研究室に籠もっているからだ。
そこへ、エレベーターを使って、駐車場からバステトが上がって来た。
「ハ〜イ由理子、また来たわよ。調子はどう?」
「あら、バステトさん、いらっしゃい。ウチの鷹志は、相変わらずよ。」
「ウチのミケーネは?……珍しく来てないのね?」
「ああ、彼なら、アヌビス君と一緒に、超時空犬猫会議とかに、出席するって出掛けて行ったわよ?」
「……そうか。今日だったのね。」
何を隠そう、その会議の議題は、ココに居る"由理子の世界"を守る算段について、であるが、ソレは、当の本人の預かり知らぬ事なのである。
何しろ彼女は、全種族で守るべき、貴重な"共感力"の持主なのだ。




