㉘ 猫の手も借りたい
「うっ!?」
鰐王は、思わずうめき声を上げた。
「気分はどうだい、ちょっとしたモノだろう?キサマがどんなに不死身でも、毒の効果はゼロって訳じゃないんだ。それにソイツは、キサマ用に、特に念入りに調整したヤツだから、効くぜえ?」
そんな事を言って、勝ち誇る追撃隊長。
そいつの言う事は、ハッタリでは無かった。
鰐王の動きは次第に鈍くなり、最後には片膝をついてしまった。
「卑怯者めが!」
吐き捨てるように言う、セベク。
「何を今さら……そもそも我々は、目的のためには手段を選ばない、最強の爬虫類族ではないか!キサマが"妙な正義感"に目覚めおって、我々を裏切るような行動をとったから、このような憂き目にあうのだ!恨むなら、そんな己の、"弱い心"を恨むのだな!よし、今からこのオレが、直々に、その首を落としてやる。覚悟しろ!」
「……ねえ、今アナタ、"猫の手も借りたい"気分なんじゃない?」
その時、突然、セベクの耳元で囁く声がした。
彼の背後に、いつの間にか、黒猫バステト神が立っていたのだ!
「何故……ここが?」
振り返って尋ねるセベク。流石の彼も驚きを隠せない。
「半ベソかいたアナタの、心のSOSが聞こえたのよ。だってアタシ、"正義の味方"なんだもの……なんてね?実は、たまたま通りかかったのよ。そしたら、楽しそうにチャンバラやってるじゃない?だから私も、混ぜてもらおうかなって。」
「……ええい、面倒だ!まとめてヤッてしまえ!」
それまで、あっけにとられて見ていた、敵の隊長が叫ぶのと同時に、25名程の残りのアラハバキたちが、毒塗りの剣を握って一斉に跳びかかる。
「まったく……毒なんていう無粋なモノを使ったりして、戦士の風上にも置けないわ。アナタたちなんか、切り捨てる価値も無いけど、仕方ないわね。」
そんな事をブツブツ言いながら、彼女は電光石火の早業で、次々に敵の首を刎ね飛ばし、オリハルコンの剣の先から炎を出して、確実にソレを燃やしていく。どいつもこいつも、ソレで再起不能だった。
しかし、またもや卑怯な敵の隊長は、隙を見て後ろから、バステトの背中を短剣で刺した。黒猫神は直ぐにソイツを突き飛ばし、自らの背中に刺さった短剣を引き抜くと、左手に持ち替えながら、こう言った。
「ねえ、アナタ知ってる?昔から言うでしょう?ネコには命が九つ有るのよ……だからこんな毒なんか、全然意味が無いのよ。残念ね。」
憐れむようにそう言った彼女は、そのまま短剣を、その隊長に振り下ろしたのである。




