㉗ 爬虫類族たち
その日、鰐王セベクは、珍しく一人で、とある時空の砂丘の上に、佇んで居た。
遠方には、例のピラミッドが見える。
後のニンゲンどもが、勝手に"クフ王の墓"だと解釈している、アレだ。
そのキャップストーンは盗られ、今や一基しか無い、巨大なアヌビスの像は、半ば破壊されて、顔をニンゲンのソレに作り変えられてしまった。
過去の栄光は、すっかり見る陰も無い。
「"兵どもが夢のあと"というヤツだな。」
彼は珍しく感傷的になり、そんな事を呟いて、自嘲気味に薄笑いをした。
しかし、彼は直ぐに、そんな気分を切り替えざるを得ない事態に陥った。
何故なら今まさに、360度彼を取り巻く、悪意に満ちた複数の気配を、感じ取ったからだ。
「キサマらもしつこいな……少しは別の事に、興味を持てないのかね?」
鰐王は、自分をすっかり取り囲んでしまった、同胞たちに尋ねる。
「……裏切者を、野放しには出来ないからなあ。オマエも爬虫類族の王を名乗るからには、分かっておろうが?」
追撃隊の隊長格と思しきアラハバキの男が、そんな返答をした。
「やれやれ……毎度、毎度、面倒な事を仕掛けてくれるな。」
「問答無用だ!やってしまえ!」
隊長の一声で、50名程のトカゲ男たちが、一斉に鰐王に跳びかかった。
彼らは、手に手に短刀やオリハルコンの剣を握っている。
セベクも仕方なく、腰のモノを抜いた。
彼らは皆、人類から見れば、オーバーテクノロジーの世界で生きている。
だから当然、個人個人の電磁防壁を備えている訳なのだが、この剣やナイフは、ソレを破る事が出来る、超振動ブレードなのだ。通常の弾丸や弓矢は、役に立たないので、一周まわってチャンバラを演じる事になっているのである。
因みに、彼等爬虫類族は皆、不死身に近い程、身体が丈夫でかつ長寿であるが、炭化などして頭部を完全に失うか、物理的ボディの半分以上を失うと、流石に死に至るのである。もっとも、太古の昔は、本当に不老不死だったらしいが……。
特に鰐王セベクは、昔、瀕死の重傷を負った日に、サン・ジェルマン伯爵によって、通称"人魚の肉"と呼ばれているモノを食わされた。そのせいで、より不死身度がアップしていたのである。
なかなか死なない者同士の殺し合いは、苛烈を極めたが、やはり鰐王の名はダテでは無く、50名のアラハバキ軍は、確実にその数を減らされて行った。
しかし、軍団の人数が半分程になった頃、セベクのちょっとした隙を、見逃さない者が居た。そいつは卑怯にも、彼の背中に斬りつけたのだ。




