㉖ 大人の事情
「アタシにはね……。」
目の前の空間にぶら下げた、二つの海水の球体に向かって語り掛けるバステト。
「……この世で一番キライな言葉が有るのよ。」
「何だ、ソレは?」
タコの大将が言った。
「ソレは……"大人の事情"よ!」
「何……だと?」
イカの大将が訊き返す。
「アンタたち、大人、大人って、言うけど、大人がそんなに立派なモノなのかしら?少なくともアタシは、子どもを泣かすようなマネをする大人を、立派なモノとは認めないわ!」
「……。」
「第一、戦争なんて、ただの聞き分けの無い大人同士の、大きなケンカじゃないの!それに大方、この戦争の理由だって、アナタたちの星の、ちょうど中間地点にある、この金色に輝く惑星の、鉱物資源の取り合いなんでしょう?」
バステトはそう言うと、自分の船の、ちょうど真下(つまり彼女の足元)にある星を、指差した。
ソレを見たイカとタコの総大将は、お互いの顔を見合わせた。どうやら、図星のようである。
「……どうする?お望みとあらば、このアタシが、紛争の原因たる、この金色の惑星を、今すぐ、ブラックホール送りにしてあげても、イイんだけど?」
……無論、ハッタリである。
「ま、待ってくれ!」
「分かった!戦争をやめる!」
二人の頭足類は、同時にそう言った。
「ちゃんと話し合って、紛争を解決する気は有るのかしら?」
重ねて尋ねるバステト。
「ああ、約束する。」
どちらの大将も、口を揃えてそう言ったのである。
「ねえ、アナタたちも、ソレでイイ?」
彼女は振り返って、頭足界のロミオとジュリエットに尋ねる。
「ハイ。」
「ありがとうございます。」
二人とも、満足そうな笑顔(?)だった。
「じゃあ、後の事は、"大人の皆さん"にお任せするわね?でも、万が一上手く行かない時は……分かっているでしょうね?」
「……あ、ああ、もちろんだとも。」
「……心得ている。善処しよう。」
双方がそう言って頷く(?)のを確認し、バステトはそれぞれの船に戻してやった。
「じゃあね、お二人さん。末永くお幸せに……でも困ったら、また何時でも呼んでね?」
最後に彼女は、頭足類のカップルにそう言うと、満足したように船に戻り、時空転位で、帰還の途についたのである。
「全く、何時でも、何処の世界でも、戦争の犠牲になるのは、子どもたちよねえ?もっと大人に、しっかりしてもらわないと、ホントに困るわあ……あ、アタシもかあ。」
船の中で、そんな独り言を呟きながら、出し抜けに、特大ブーメランを心に受ける、バステトなのであった。




