㉒ お礼の宴
「じゃあ、私はコレで……。」
踵を返して、時空旅行機に戻りかけたバステトに、カラス族の長が声を掛ける。
「ああ、どうかお待ち下さい。」
「何?まだ他に、困っている事でも有るの?」
「先をお急ぎで無ければ、せっかくですので、ささやかながら、お礼の宴を一席設けたいのですが……。」
「あら、ありがとう。でも、気を使わなくてイイのよ。コレは、暇を持て余したアタシが、趣味でやっている、ボランティアなんだから……。」
「実は他にも、色々とご相談に乗って頂きたい、細かな案件もございまして、そのついでにと……。」
「そう?そういう事なら、少しだけ寄って行こうかしら……。」
「無理を言ってスイマセン。是非そうして下さい。」
そんなやり取りをした後、バステトは長の邸宅に呼ばれ、宴の席に案内された。テーブルには高級キャットフードやマタタビが用意され、席に着くと、早速グラスに、メイドイン惑星ガイアの、ドン・ペリニヨンP3が注がれた。
手厚い歓迎に、バステトも悪い気はしなかった。ただ、舞台で孔雀族が華麗に舞い始め、グラスに口をつけると、にわかに急激な眠気に襲われ、彼女はそのまま、テーブルに頭を預けて眠ってしまったのである。
「眠ったか?」
「存外、チョロかったな?」
その周りを取り囲んだ、カラス族たちが囁き合った。
「では早速、ラボに運んで、サンプルを採取するのだ。」
カラス族の長が、部下に命じた。
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……それから30分後。
ラボの手術台の上で、"大の字"になって寝ていたバステトは、目を覚ました。
「おはよう。よほど疲れていたのかな?良く眠っていたね?」
その声は、またしても、犬王アヌビスだった。
腕組みをした彼は、手術台の右側に、寄りかかって立っていた。
「それにしても、キミとも有ろう者が、迂闊な事をしたね?」
犬王が、重ねて話し掛けて来る。
バステトは答えようとして、頭を抱えた。
何だか、ガンガン痛い。
どうやらシャンパンに、一服盛られたようだった。
落ち着いて、良く良く室内を見回すと、カラス族の黒い羽根が、そこら中に散らばっている。
「……ああ、ちょっと、散らかっていてゴメンね?少し掃除が、間に合わなかったんだ。」
「いいのよ。ありがとう。恩に着るわ。」
どうやらアヌビスは、関わった者たちを全員、闇に葬ったようだった。
(コレは、いよいよ、私のカラダの何処かに、発信機が仕掛けられているようね?)
「……おかげ様で、またもや助かったけど、どうやって事態を把握したのかは……訊かないでおくわ。」
「エヘヘ……ソレはキミの心の声が……。」
「はい、はい。そういう事にしておくわ。」
後で聞いた話によると、コレは、一部の急進的なカラス族の、仕業だったそうだ。彼等は強大なチカラを欲しがっていた。
それで、バステトのカラダから、無断でサンプルを採取し、彼女の複製……つまりクローンを、作ろうとしたらしい。
この真相は、現場にいち早く駆けつけたアヌビスが、事件の首謀者から聴き取りをして、掴んだモノだった。
バステトは、彼が、どんな手段を使って、敵にソレを吐かせたのかは、訊かない事にした……。




