⑳ お目覚め
数時間後、バステトは目を覚まして、ベッドの上にムクッと身体を起こした。
「やあ、おはよう……体調は如何かな?」
目の前のソファに腰掛けている、犬王アヌビスが声を掛けてきた。何時もの優し気な、麻呂眉黒柴犬の姿だった。いつの間にか、四つ有った死体は、キレイに片付けられている。
「……?」
思わずバステトは、辺りを見回す。
「……ああ、ゴメンね。ちょっと部屋が散らかっていたから、勝手に掃除させてもらったんだよ……いけなかったかな?」
「さっきは、イタチ族の刺客を始末してくれて、ありがとう。助かったわ。」
「何の事かな?ボクはただ、可愛いキミの寝顔を、眺めていただけだよ。」
「アナタ、紫のドーベルマンに変身した時は、本当にイイ仕事をするわよねえ?」
「キミが、ナニを言っているのか、サッパリ分からないなあ……。」
「まあ、イイわ。一応、"借りイチ"にしておいて。」
「困った時は、お互い様って事で……。」
犬王は、最後には、否定しなかった。
現在の彼の立場上、未だに暗殺稼業を続けているなんて、認める訳には行かないんだろう。素敵なスキルを持ちながら、難儀な事だと、バステトは思った。
「……ところでアナタ、よもや、この部屋に、隠しカメラとか、付けてないでしょうね?」
「ま、まさかあ……そんなあ、心外だなあ。」
「駆けつけるタイミングが、何時も良すぎるのよねえ……怪しいわあ?」
「ア、アハハハ……。ボクには、キミの心のSOSが、時空を超えて聞こえて来るのさ。」
変な汗をかくアヌビス。
「……まあ、イイわ。そういう事に、しておいてあげる。」
その時、バステトに異変が起こった。
「う、うえ〜っ」
彼女はヘンな声をあげると同時に、口から大きなナニかを吐き出した……ソレは、巨大な毛玉だった。
「はぁ~、スッキリした。年に何度かコレが有るから、面倒なのよねえ。いいかげん、先祖代々続くこのカラダの特性に、嫌気が差してくるわあ。」
バステトはそう言うと、早速傍らに置いてあったオリハルコンの剣を取り、ブンブン振り回した。そして「うん、快調ね!」と、彼女は満足気に呟いた。
「シャワー浴びて朝ごはんを済ませたら、早速本日のパトロールに行って来るわね!アヌビス君、今日はホントにありがとう!」
「なんの、なんの。お安い御用ですよ。」
そんな返事をしながら、元気に部屋を出て行く彼女を、目を細めながら見送ると、犬王アヌビスも、中庭の自分の時空旅行機に戻り、帰路に就いたのだった。




