⑲ 彼女の弱点
そんな傍若無人な程に、強さを誇るバステトにも、定期的に体調が悪くなる時期が有るのだった。
ある日、朝から、夫のミケーネ王子は出張に行く事になり、ベッドでまだ寝ている妻に声を掛ける。
「ねえ、ボクはもう出かけなきゃだけど、大丈夫かい?」
「気にしないで。いつものアレだから……。」
そう言いながらも、バステトは、ベッドの中から出られない。
(う~ん、頭がボンヤリする。それにカラダが重い。アレの直前はいつもこうだ。)
「じゃあ、部屋のカギを掛けて行くからね。」
ミケーネは心配そうにしながらも、そう言って、結局出かけて行った。
(まあ、優秀な侵入者にとっては、ドアも、カギも、無意味なんだけどね……。)
彼女は朦朧とした意識の中で、ついそんな事を考えてしまう。
すると部屋の中で、ヴン!という聞き覚えのある音がした。
枕の中に顔を埋めながら、片目を少しだけ開けて見ると、彼女の部屋の四隅の空間に、縦長の楕円形の穴が開き、頭のてっぺんから足の先まで、真っ黒い布で身を包んだ者たちが、音も無く侵入して来たのだ。
(……ほらね?アイツらの雑なやり方でも、ついに、この場所に通じる、ポータルを見つけたって訳か。こりゃいよいよ私も、年貢の納め時かしらね?)
バステトはそんな事を考えながら、自嘲気味に薄く笑った。
その間にも、手に手に鋭い刃物を持った、黒ずくめの4人の刺客たちが、四方から、じりじりと彼女に近づいてくる。至近距離から一斉に跳びかかって、息の根を止めるつもりなのだろう。
うまく身動きが取れないバステトは、固く瞼を閉じ、ガラにも無く覚悟を決めた。
しかしその時、更に異変が起きた。
東の角の刺客の背後に、更に別の濃い紫色の影が現れ、無言のまま二刀の短剣を振るい、その首を斬り落としてしまったのである。
次にそいつは、足音もさせずに素早く動き、部屋の中を時計回りに移動すると、南側、西側の敵も瞬時に始末してしまった。残るは北側の敵のみだ。
すると、それまで無言だった最後の敵が、思わず呟いた。
「まさか、お前、伝説の暗殺者アヌビス……。」
……全て言い終わる前に、ソイツの首も斬り落とされてしまった。
「おかしいなあ。出逢った敵の命は、全て奪ったはずなのに、どうして正体が、バレちゃってるのかなあ。最近のボクの仕事、雑になってるのかなあ……?気をつけなくっちゃね。」
その一部始終を、ベッドの中から、ボンヤリと眺めていたバステトは、ニヤリと笑いながら、「相変わらずの腕前ね、アヌビス君……。」と呟いた。
そしてそのまま、彼女は深い眠りについてしまったのである。




