⑫ 狼藉者め
※ これ以降、猫語での会話が続きますが、作者の都合で、ニンゲンの使う日本語表記になっている事を、お許し下さい。
「今……何て言ったのかしら?」
ブルブル肩を震わせながら、双方の猫のボスに訊き返すバステト。
(あっ、ヤバイ……。)
由理子が思った時には、もう手遅れだった。
100匹余りの猫たちが、一斉に静まり返る。
猫は、その場の空気の変化に敏感だ。
そうやって、生き残って来た種族だ。
だから皆、固唾を飲んでバステト嬢を見つめた。
「……別の時間軸とは言え、同族のよしみで、ちょっと下手に出てやれば、ドイツもコイツも、イイ気になりやがって……。」
彼女の声が、徐々に怒気を孕んで行く。
彼女の艶のある、全身の黒い毛が逆立つ。"怒髪天を突く"とは、正にこの事である。
その眼は次第に釣り上がり、金色の瞳の瞳孔は、縦に細く長くなり、光を放ちつつあった。
「いいか、テメェら!美味しいオマンマにありついて、気楽に長生きしたいのは、皆同じだ!」
彼女の第一声は、そんな怒鳴り声だった。
その場の全ての猫たちがビビり始める。
「コイツらをよく見ろ!」
彼女がそう言って、先客の一群を指差す。
「自分たちの命を繋ぐために、プライドを捨てて、ニンゲンの軍門に下り、毎日の安定した食事を手に入れたんだ!」
「それなのにオマエらは……!」
彼女が、他所モノの一群を振り返る。
「……その縄張りを、タダで奪おうって言うのか!?それとも、コイツらとともに、プライドを捨てて、その耳に切れ込みを入れられて、ニンゲンからオマンマを貰う覚悟は有るのか!?」
100匹の猫たちは、黙り込んだままだ。
「キサマらに対して、黒猫神の名の元に命じる!その覚悟が有る者はここに残り、もと居た者たちに頭を下げて、仲間に加われ!だが、そうでない者は即刻、ここから立ち去れ!」
猫たちがザワザワし始めた。
「さあ、文句が有るヤツは、この私が相手になってやる!束になって掛って来てもよいぞ!……ただし、命がけで来いよ?」
バステトはそう言うと、猫たち全員に向かって、ニヤリと笑って見せた。
その笑顔が、ヤツラをビビリ倒した事は言うまでもない。
やがて猫たちは、それぞれ思い思いに動き出した。或る者は先住猫に頭を垂れ、また或る者は、その場から立ち去って行った。
こういう場合、一群のメンバーを構成していた者たちも、個人行動になる。ソコが犬とは違う。元々単独行動が好きな、猫の猫たる所以なのである。




