⑪ 由理子とバステト
さて、ここはニンゲンの世界。
由理子は、困り果てていた。
別に、世界の終わりが近いからとか、そんな深刻な話ではない。しかし、一人では解決出来そうにない事態に、閉口していたのだ。
「あ〜あ、ネコの手も借りたい気分だわ。」
ついつい独り言を呟いてしまった。すると……。
「……貸そうか?ネコの手。」
彼女の背後で、突然、そんな声がしたのだ。
「わあっ!?」
大声を出してしまう由理子。
「アタシだよ、ア・タ・シ。」
それは黒猫神のバステト嬢だっだ。
「ゴメンね。ビックリさせちゃった?」
「うん、ちょっとだけ……別の件で悩んでたから。」
「珍しいわね?由理子はいつも、悩みとは無縁に見えるのに……。」
「ソレは……ちょっと傷つくなあ。私にだって、悩みくらい、あるもん。」
「どうせいつも、鷹志の事でしょ?」
「あー、まあ、そうかも……って、そんな事はどうでもイイのよ。私の悩みの正体は、コレよ!」
バステトが、彼女の指差す先を見ると、足元に、たくさんの野良ネコたちが居たのである。 しかもよく見ると、50匹くらい同士の集団に別れて、睨み合っている。
由理子によると、ここはニンゲンの世界の……森林公園という場所らしい。
ここでは、ニンゲンに保護された野良猫たちが暮らしていて、その目印は、片耳に切れ込みが入れられている事だそうな。バステトは端的に(ひどい事するなあ。)と思った。
そんな由理子の話を聞いた後、改めて二つの猫陣営を見ると、なるほど、片方の集団の猫たちは、皆、耳に切れ込みが有る。つまり、ここで保護を受けている者たちだ。そしてもう片方の集団は、そうではない……という事は、こちらが純然たる野良猫軍という訳だ。
どちらの猫たちも、お互いにイカ耳になりながら、態勢を低くして唸り合っている。
つまり、心優しい由理子は、どちらの陣営の肩を持つ事も出来ない、という訳だった。なるほど。コレは面倒である。バステトも困った。自分の進化前の御先祖様のような連中の、どちらの肩を持つことも難儀だ。
という事は……解決策はたった一つ。
『ハイ、みなさ~ん。コチラに注目してくださ~い。』
バステトは、古いタイプの猫語で、両集団に向けて声を掛けた。
すると、その場に居た全ての猫たちの眼が、彼女を睨みつけた。
『皆さん、私が誰だかご存じですよねえ?黒猫神のバステトですよ~。』
『それが、どうした!』
『おととい来やがれ!』
両陣営のボスらしき猫が、双方から、失礼極まりない言葉を返した。
バステトは、その瞬間に、ムカッと来た。




