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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第一篇:聖女と組んだ最初の事件

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第9話 事件の終わりに

 穢れの浄化が終わり、アンリッヒは警察隊によって拘束された。事情聴取に彼女は犯行を認め、宝石窃盗及びハングリッド殺人事件は犯人逮捕となり、解決する。


 穢れが引き起こした事件として多少の温情は与えられるが、罪は償わなければならない。


 ハンブリア国立図書館の一室。一般閲覧および貸出禁止の魔導書が保管される特殊な本棚が並ぶ室内で、クロノスは魔導司書官としての業務を行っていた。



「貴方の気づいたあの裏口の証拠ですが、どうやらアンリッヒが警察隊の一人を買収していたようです」


「だから、見逃されていたのか」



 魔導書の保管状態、傷みや異常の確認をしながらクロノスは答える。傍に設置されたテーブルの椅子に座るレミリアに目を向けずに。


 レミリアは事件のその後の報告をわざわざしにやってきていた。一応は協力者なので教えてくれたらしい。


 クロノスは律儀なものだなと思ったが口には出さず、話に耳を傾ける。レミリアは「貴方の協力には助けられました」とお礼を言った。



「ありがとうございます」



 思わずクロノスは顔を上げてレミリアへ目を向ける。彼女はそんな反応を不思議そうに見つめてくる。



「どうしました、そんな驚いた顔をして」


「いや……お礼を言われるとは思っていなかったんだ」



 自分の評判をクロノスはよく理解している。今回の捜査の時も要所要所でやらかしていた自覚はあった。特にアンリッヒへの態度は反省するべき点だろう。


 そうとは言わずにいれば、レミリアはうーんと首をひねってから、「貴方の言動でしょうか」と察する。



「確かに度々、失礼な言動があったかとは思いますけれど、貴方の協力のおかげで事件も解決し、穢れも浄化できたのです。お礼を言うのは当然でしょう」


「大したことはできていないと俺は思うが」


「犯人を見つけ、穢れを拘束し隙を作ってくれた。これの何処が大したことができていないのですか?」



 謙遜も場合によっては良くない方向に解釈されてしまうと、レミリアに注意されてしまう。そういうった意味ではなかったが、クロノスはびしっと指をさされては何も言い返せず。


 わかったと返答するしかない。レミリアがじとりと見遣ってきたので、何か言いたげにしていたことは伝わっているようだ。



「噂には聞いていたのですが、想像とは少し違っていましたね」


「俺の事か。どんな人間だと思っていたんだ?」


「そうですね。女をとっかえひっかえしている、冷たい男でしょうか。言い方を悪くすれば最低な男ですね」



 女性は去る者は追わず来る者は拒まず、それでいて爵位の低い者や平民には冷たいと聞けば、そういった印象を抱くのは仕方ないだろう。


 噂には尾ひれがつくものなので、他にもいろいろと言われているのはクロノスも知っている。嫌でも耳に入るものなのだ、こういうものは。


 実際に女性に酷い言動をしていたので、どうしようもないのだが。つい先日もそれで女性に思いっきり頬を叩かれて別れている。


(そのせいで余計な事(前世の記憶)を思い出したわけだが……)


 転生したという前世の記憶など今更、思い出してもどうしようもない。そもそも、この記憶のせいで事件などに関わってしまったのではないかと、疫病神扱いをしてしまいそうになる。



「今はそうですね……話の通じる冷たい人、でしょうか。所々に噂の影は見えますので、冷たい印象はまだありますね。しかし、流石は希少な魔導司書官。魔法の扱いが抜群でした」


「魔導司書官と認められた人間ならばあれぐらいはできなくては、むしろ怒られてしまうだろう」



 魔導司書官は魔導書の知識だけでなく。魔法も長けていなければならない。どちらかに偏ってはなれない職だ。


 自分以外の魔導司書官でもあれぐらいはできただろうというのがクロノスの考えだったのだが、レミリアは「貴方の判断能力もだいぶ良いかと」と褒めてくる。


 クロノスは思わず顔を顰めてしまった、褒められ慣れていなくて。



「なんですか、その顔は」


「いや、褒められ慣れていないものでな」


「あぁ、貴方は褒められるよりは怒られる側ではありますものね……。子爵令嬢のランドールさんに思いっきり頬を叩かれたんですってね」



 噂を耳にしましたとレミリアが呆れた顔を向けてくる。やはり、あの出来事は彼女によって広まったようだ。


 頬を叩いたことに関しては親に怒られたらしいと、レミリアは教えてくれた。酷い扱いを受けたにしろ、相手は公爵令息なのだ。親の立場からすれば、波風は立てたくないのが本音になる。


(まぁ、父上も母上も俺の言動には慣れてしまっているから、抗議することもないのだがな)


 跡取りの兄と違ってクロノスは自由にさせてもらっている。この歳で婚約者がいないことを心配されてはいるけれど、自分に合った女性がいないのだから仕方ない。


 結果、去る者は追わず来る者は拒まずで、とっかえひっかえしている最低な男となっている。これに両親は呆れて何も言わなくなっているのだ。



「その言動をどうにかすれば良い人が現れるのではないでしょうか。頭は冴えてますし、魔導司書官という安定した職ですから」


「そう簡単に身に染みた性格というのは治らないが……善処しよう」


「なんでしょうかね、その信じられない返答は」



 流すように言ったからだろうか、信じられないとばっさり切り捨てられてしまった。クロノスが眉を下げれば、レミリアはじと目で見つめてくる。



「要件が終わったならば、そろそろ業務に戻りたいのだが?」


「そうですね。伝えることは全て話しましたから。この度はありがとうございました」


 椅子から立ち上がってレミリアは部屋を出て行った。これでやっと解放されたな、クロノスがはぁと息を吐き出したのと同じく、ひょこっとレミリアが顔を出す。



「では〝また〟」



 にこりと笑んで今度こそ、レミリアは部屋を後にした。クロノスは彼女が出て行った扉を見つめる。それはもう酷いしかめっ面で。

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