第57話 三人者三様の反応
時刻は昼過ぎ、予備校は昼休憩だ。皆が昼食を取る中、ティルダはこっそりとボルティルとヴィタリーを連れて、クロノスとレミリアがいる会議室を訪れていた。
これはクロノスが考えた作戦の一つだ、事件について聞くための。
二人には改めて友達を紹介したいという体でティルダは連れてきてくれている。この日のためにティルダは準備していたと言っていたが、なんだろうか。クロノスは彼女の出方を窺う。
「師匠は凄いのですよ、聖女様の助手として活躍していて」
「それ、何度も聞いてるわ」
「何度も?」
「こいつ、魔導司書官の弟子になれたってずっと自慢ばかりしてくるんだよ」
ヴィタリーが羨ましげにティルダを見遣る。ボルティルも聞き飽きたわといったふうだ。
そんな二人に構うことなく、表情がないままティルダは胸を張った。どうやら、これが彼女が準備したことのようだ。
自慢を体に事件の話をしようということなのだ。それを察したクロノスがレミリアにアイコンタクトを送る。
レミリアも気づいたようで小さく頷いた。「余程、嬉しいのですね」と、ティルダの話題に乗る。
「当然です。騎士ばかりに拘っていた父を説得してくださったのですから」
「お前は良いよな。推薦状を貰ってるから受験に有利だもん」
「ヴィタリーは魔法の勉強をもっとした方がいいですよ。ボルティルは魔導書の知識ですね」
ティルダの指摘に二人は顔を見合わせるも、言い返すことはしない。図星をつかれている自覚があるようだ。
クロノスは「偏りがあってはいけないな」と魔導司書官としてのアドバイスを一応はしておく。
「魔導司書官としても凄いですが、師匠は聖女様と事件を解決しているのですよ!」
「そういえば、事件を解決したって聞きました」
「そうなんです! この前なんて、ホテル:ドラフ=ミシアでの事件を解決したばかりなんですから」
新聞にも載っていたでしょうとティルダが話題に出した。このタイミングでかと、クロノスは二人の様子を見る。
その話は知っているとボルティルが「でも、怪我人がでなくてよかったわ」と、被害が少ない事に対して安堵していた。
ヴィタリーは事件に対して「騒ぎになっていたのは知ってる」と、興味なさげにしている。
一見すると二人の行動におかしな点は無いのだがと、クロノスが思っていれば、ティルダが「穢れというのは」と疑問を口にする。
「穢れは悪魔のようなものですよね?」
「えぇ、人間を誘惑し、負の感情を増幅させて、破滅した瞬間に魂を食らうのです」
「意思があると聞くのですが、やはり他の人間にも干渉するのでしょうか?」
「えぇ、します。穢れに闇を見つけられて利用される場合もあります」
憑りついた人間だけでなく、周囲をも利用するのが穢れだ。だから、気を強く持たねばならないのですと、レミリアが返答した時だ。
びくりとヴィタリーの肩が跳ねた、僅かに。注意深く観察していなければ、気づけなかった仕草。
「君たちは魔導司書官を目指しているならば、図書館を利用しているだろうか?」
「もちろんです。ハンブリア国立図書館の第一魔導書室には定期的に通っています。知識をつけるために! ヴィタリーもそうでしょう?」
「え、あぁ……もちろんだよ。知識は必須だからね」
ここ最近も図書館で会ったものねとボルティルに言われて、ヴィタリーは頷き返す。図書館と穢れの話題に少しばかり怯えを感じる。
(何か隠し事があるな)
彼は何かを隠しているクロノスがどう聞くかと考えていれば、会議室の扉が開いた。
「こら、三人とも。講師のお二人がお休み中でしょうが」
「あ、ヘリット先生」
全くとヘリットは三人を呆れたように見つめる。見つかったとボルティルがティルダの後ろに隠れ、ヴィタリーが俯いた。
ティルダはといえば、これはチャンスと言わんばかりに「今、師匠の活躍の話をしていたんですよ!」と話す。
「先生も知っているでしょう、ホテル:ドラフ=ミシアでの事件!」
「あぁ、話は聞いているよ。犯人も分かりやすい態度だったらしいじゃないか」
その場にいた客が言いふらしていたよと、ヘリットは聞いたんだと答えた。
「確かマジシャンの手品を利用したんだってね。弟子が床に置いたカバンに仕掛けをしたとはいえ、爪が甘い犯人だったみたいじゃないか」
「噂ってあっという間に広まるんですね」
ボルティルが驚いていれば、「ぼくの耳にもすぐ入るぐらいにはね」と、ヘリットが笑う。新聞をあまり読まないというのにと。
「って、そんなことはいいんだよ。ほら、お二人の休憩の邪魔はしない」
「えー」
「えーではないよ、ティルダ。ほら、戻る戻る」
ヘリットはティルダの背を押しながら、ボルティルにも声をかける。
二人は渋々といったふうに頭を下げながら会議室を出ていくのに、続くようにそそくさとヴィタリーがヘリットの脇を通り抜けた。
目を合わせないというよりは、見れないように。クロノスは彼の様子がおかしいという確信を得る。
「レミリア聖女様とクロノス魔導司書官殿、本当に申し訳ございません。生徒が押しかけてしまって……」
「いえ、気になさらず。ティルダさんはクロノス魔導司書官のお弟子さんですから」
「俺も気にはしてないので問題はないんだ」
ヘリットは「お二人がそうおっしゃるなら」と下げていた頭を上げる。彼と話すなら今かとクロノスは「そういえば」と話題を変えた。
「ヘリット講師はよく図書館を利用しているかと思うのだが」
「え? はい、利用していますが……」
「いや、見かけたことがあったなと。常連の利用者というのは覚えるものなんだ」
いつも利用してくれているようでとクロノスが言えば、「あそこに敵う図書館はないですからね」とヘリットは話す。
「各部屋が広く多種多様な分野の魔導書が一部ではあるものの、自由に読めるのですから。隅から隅まで毎回、確認してますよ」
「勉強でしょうか? それとも授業に必要な?」
「授業もですが、知識欲が強くて……。一度、興味が湧くと没頭してしまうのですよ」
気になりだしたら止まらなくなるらしい。ヘリットは「ぼくの悪い癖でもあるんですよ」と、頬を掻く。これでも注意はしているのですがねと。
「まぁ、勉強にもなってるんでいいのですが。あぁ、すみません。では、この辺で」
ヘリットは慌てて会議室を出ていった。足音が遠のいていったのを確認してから、クロノスはレミリアに目を向ける。
「隠し事がありますね、ヴィタリーさん」
「気づいたか」
「えぇ、些細な仕草でしたが」
レミリアも気づいたようだ、ヴィタリーの行動に。何かしら隠し事をしているのであれば、それが事件に関わっている可能性は否定できない。
どうにか聞き出すことができればよいのだが。クロノスが思案していれば、うーんとレミリアが首を傾げていた。
彼女も聞きだす方法で悩んでいるのかと問えば、「いえ……」と首を左右に振る。
「それは確かに悩ましいのですけど、なんか違和感があったんですよね。気のせいかなと」
ヴィタリーの言動に違和感があっただろうか、クロノスも思い出してみるが、隠し事をしていることぐらいしか気づけなかった。
「とにかく、注意深く見ていようか」
「そうですね」
観察していれば違和感にも気づくかもしれませんからと、レミリアは納得する。クロノスも彼女の気づいた違和感にか気にかけてくことにした。




