第51話 夢から読み取れるもの
また、夢を見た。前世での、自分が死ぬ時の出来事を。
幼い少女を守るために身を盾にして、刺され続けた時の痛みを思い出す。それでも自分は誰かを恨むことはなかった。
霞みゆく視界に映る、少女の涙は忘れられない。それから――
『生きて』
か細く聞こえたその声も。
***
「夢というのはワタシも見るわ」
とある天気の良い昼下がり。深緑の魔女・シルヴァリアの屋敷、中庭のテラスにクロノスはいた。目の前に座る彼女はそう言ってティーカップに口をつける。
シルヴァリアは転生者だ、クロノスと同じ。彼女は転生者だからすぐに分かったと言っていたが、他にも理由があるのではないか。
クロノスはそう思ってシルヴァリアの元を訪ねた。もちろん、よく見る前世の死に際の回想も気になったから。
「ワタシも前世の夢を見ることがある。それから予知夢、魔女たる力の一つね。アナタのことは予知夢で見たのよ。同じく前世の記憶を持つ転生者であると」
予知夢で見たものは現実でもそうだ。だから、あの時に確認し、自身のことも打ち明けたのだとシルヴァリアは話した。
「アナタはワタシと同じ転生者。ならば、二人っきりの時は魔女を演じなくてもいい。だから、こういった喋り方をしているの」
「だろうな。雰囲気が変わっている」
「アナタは自由にやれているけれど、ワタシはこの国を守り抜いた魔女として箔がついてしまっているから。ちょっと真面目にやらなくてはならないのよね」
演じるのは疲れるのよとシルヴァリアは溜息を吐き出す。なんとも気だるげな表情というのは、魔女としてではなかなかに見れないものだ。
話がそれたわねとシルヴァリアはクロノスの夢の事について考察をする。
「同じシーンをずっと見るということは、そこに後悔があるのだと思うの。多分、助けようとした少女に言われた一言ね」
少女に言われた『生きて』という言葉。願われたというのに、死んでしまったという後悔が少なからずあるのではないか。シルヴァリアの考察になるほどと、クロノスは頷く。
少女の命は助けられたかもしれないが、目の前で死ぬというトラウマは植えつけてしまっている。自分を助けるために死んだとなれば、心に深く刺さるだろう。
幼いならば、特に。そうしてしまった後悔の念というのは、少なからずあるかもしれないとクロノスは思ったのだ。
「夢というのには意味があることがあるわ」
「と、いうと?」
「また、同じようなことが起こる、あるいは……選択を迫られるの」
同じようにまた誰かを庇って負傷するかもしれない。その時に死ぬか生きるかの選択が迫られる。
生死など自分で決められるわけもないだろう、なんて思わなくもないのだが、シルヴァリアは「生きたいと思うか、死ぬことを受け入れるかは違うのよ」と言った。
生きたいと思い、最後まであがく。死ぬことを受け入れて、身を犠牲にする。これは違うでしょうと。
「きっと、アナタが助けた少女は前者を願ったのではないかしらね」
身を犠牲にするのではなく、生きてほしかった。シルヴァリアの言葉に、少女がそこまでと思うも、子供というのは生死のことを大人以上に考えていると聞いたことがあった。
死んだら何処にいってしまうのか。
天国はあるのか、地獄もあるのか。
生まれ変わることはできるのか。
そういった疑問を大人よりも子供のほうが抱く。そうして、怖がったり、諦めたり、受け入れたりするのだと。
あの時の少女も自分の中で一つの答えがあったのかもしれない。だから、生きてと願った。
「アナタはどうするのかしらね?」
もう一度、選択する時が来た時は。にこりと笑むシルヴァリアにクロノスは何とも言えない表情で返した。
そうなった時、今の自分ならどうするだろうか。少し考えてから、「その時になってみないと分からない」と答えを出す。
「その時の状況によるさ」
「アナタらしい答えね。でも、それでいいのよ」
難しく考えるだけ無駄なのだ、こういうのは。シルヴァリアは「ワタシも流れに身を任せたし」と言う。
「ワタシの話で少しは疑問が解消できたかしら?」
「あぁ、だいぶ納得はできた」
「そう。では、これをアナタに渡したいの」
シルヴァリアはそう言って封筒を取り出す。なんだと受け取って中身を確認すれば、ホテルディナーの招待券だった。
王都にはいくつかホテルが、その中でも三本の指に入る高級ホテルのディナー招待券。貴族だけでなく、王族もお忍びでやってくるホテル:ドラフ=ミシアとなれば、ディナーを予約するのも大変なとこだ。
何故これをとクロノスが招待券からシルヴァリアに目を向ければ、彼女は「この前のお礼よ」と訳を話す。
「ほら、アナタたちを指名して犯人を捜さしてもらったのに、お礼はしていなかったでしょう?」
それにティルダのことでも迷惑をかけてしまったというのに、何のお礼もしないのはよくはない。
シルヴァリアはどういったもので返そうか考えていたのだという。
「で、アナタってレミリア聖女と婚約なさったでしょう。あぁ、その顔を見るにまだ婚約候補者で通しているようね」
それはもうしかめっ面になったクロノスを見てシルヴァリアはくすりと笑う。
「ご両親たちと食事にいってはどうかしらと思ったのよ。ほら、両者顔合わせということで。招待券も人数分あるわ。アナタのご両親と兄君、レミリア聖女のご両親とね」
「用意がいいな……」
眉を寄せながら招待券を数えてクロノスは返事をする。正直に言えば、返却したい。だが、シルヴァリアは「じつはね」と話を続ける。
「そこディナーで出されるデザートのイチゴを使ったケーキ、レミリア聖女が大好きなの」
「……」
「きっと、喜ぶでしょうねぇ」
にこにこしているシルヴァリアをクロノスはしかめっ面で見つめるしかない。その言い方は反則だろうと。
(俺が彼女を放っておけない相手と知っていて、言っている)
後から行けたかもしれないとなれば、レミリアは残念がるだろう。拗ねるほどではないにしろ、「まぁ、貴方なら断りますよね」と納得はしてくれる。
だが、いくら貴族とはいえ、予約を取るのに一苦労するホテルのディナー。彼女なら残念がるだろう。
その姿を見たいかと問われると――放っておけないとなってしまう。
だから、仕方なくクロノスはその招待券を受け取った。




