第48話 口を滑らす
「アドルフ、それはどういうことだろうか?」
クロノスが問えば、皆がなんだとアドルフを注視する。彼は「えっ」と、声をこぼながら、おろおろとしていた。
言いにくそうというのを察したクロノスだが、それでももう一度、彼に問う。そうすれば、アドルフは「実は」とゆっくり話し始めた。
「確かにエリクは妹の写真が入ったロケットペンダントを持っていました。でも、それ知ってるの、おれだけなんですよ……」
エリクは妹の写真が入ったロケットペンダントは持ち歩いてはいない。首元にかけるものなので、引っかかってしまっては危険だからだ。
いつも枕元に置いて朝起きた時に写真を確認し、妹の成長を祈ってから身支度をする。これがエリクのルーティーンだ。
部屋からは絶対に持ち出さないと、エリクは言っていた。アドルフは「おれはあいつの部屋に入ったことがあったから聞いたんだけど……」と、困惑している。
「エリクは親友のおれだから教えてくれたんだ。ロケットペンダントに関しては誰にも話さないって……。なんで、知ってるんだよ、クルト」
「そ、それは彼の部屋を訪ねた時に……」
「誰かが訪ねてきた時はペンダントは隠して対応してるんだよ、エリクは!」
声を荒げながらアドルフは「お前が知っているのはおかしい!」と、クルトの胸倉を掴んだ。
あまりの豹変の仕方に一瞬、驚いていれば、ダミアンが二人の間に入ってアドルフを引き剥がす。
「落ち着け!」
「落ち着いてられるかっ! こいつがロケットペンダントの事を知っているのはおかしいんだよ!」
「確かに、どうして知っているのでしょうか?」
レミリアはうーむと考えてから、「忍び込んだ可能性があるのでは」と、クルトに目を向ける。
あれだけ騒いでいたというのにクルトはぴたりと動きを止めて、黙りこくってしまった。
けれど、目が泳いでいる。明らかな焦りの様子にクロノスはなるほどと、顎に手をやってから思案する。
クルトが嘘をついた、口を滑らしたのは間違いない。けれど、犯人である証拠はないのだ。
(ロケットペンダントは触れた者に発動する魔法……うん?)
クロノスが魔法を解いたロケットペンダントは〝触れた者〟に発動するようになっていた。
もし、魔法をかけたとして、この状態だけでは術者も下手に障ることができない。これはとクロノスが一つ、可能性に気づいたのと同じく、室内の扉が開いた。
「現場の捜査をした中で鍵が故意にこじ開けられた形跡があった……って、なんだクロノス魔導司書官殿」
レナント捜査課隊長が現場検証の結果を伝えにやってきた。彼の手にはロケットペンダントが握られている。
「レナント捜査課隊長、そのペンダントを貸してくれないだろうか?」
「はあ? まぁ、いいが……」
クロノスの説明のない頼みにレナントは困惑しながらも、ほらとロケットペンダントを差し出す。
受け取ったペンダントをクロノスはクルトの前に置いてから、魔法陣が描かれている面を表にした。
クロノスがすっと指で触れてから指を鳴らす。ばちんっと音を鳴らして――魔法陣が薄っすらと光る。
「再度、魔法を発動させた。手は一切、加えていない」
「どういうことですか、クロノス魔導司書官」
「俺が確認した限り、このロケットペンダントは〝触れた者〟に魔法が発動するようになっていた」
レミリアの問いにクロノスは答えた。触れた者を限定としているならば、術者にも影響が出てしまう。では、どうするのか。術者には〝効果が発揮されない〟ように術をかけるのだ。
クロノスは再び魔法を発動させただけであり、仕掛けを解いたりも、加えたりもしてはいない。この状態はエリクが触った時と同じだ。
「ただし、威力だけは弱めてある。死ぬことはない。もし、このロケットペンダントに魔法をかけたのであれば、術者には影響はないはずだ」
何もないのであれば、触れるだろう。クロノスの言葉に来るとはロケットペンダントを凝視する。
少しばかり震えている肩にクロノスは「他の二人は触れるだろうか?」と、ダミアンとアドルフに問いかける。
「あ? 威力は弱まっているんだろ? 死ぬことがないなら触れる。それぐらいで一つ、無実を主張することができるなら、オレは喜んで触るさ」
そう言ってダミアンはロケットペンダントに触れた。ばちっと一瞬、火花が散って、「うおっ!」と、彼は手を引っ込める。
「いってぇえ! これで威力を弱めたっていうのかよ!」
「痛みには耐えてほしい。では、アドルフも触ってもらえるだろうか?」
「もちろん、おれだって触れるさ!」
アドルフはそう言ってロケットペンダントに触れて、また火花が散った。一連の流れを見ていたクルトはぷるぷると握っていた拳を震わせる。
揺さぶりは効いている。では――
「触ってみてくれないだろうか? 魔法が発動すれば、ダミアンの言う通り、一つは無実を主張できる」
クロノスの言葉にクルトはロケットペンダントに向けていた眼を持ち上げて、ぎろりと睨みつけてきた。




