第47話 容疑者たちの言い合いに紛れて
警察隊がやってきて現場が保全される。彼らが捜査している中、別室に数人の雷属性を扱える騎士が集められた。
ランドルフがその中でエリクの事を知っているないし、親しくしていた、問題を起こしていた人物が選別される。
残ったのは三人の騎士だった。同じ部隊に所属している同期の騎士で、雷属性の魔法に関しては上級者で間違いがない。
少し小柄な男性であるアドルフはエリクと親友といった仲だったようで、彼が死んだと聞いてショックを受けているようだ。
顔色が悪く、信じられないといったふうに「嘘だよ、嘘だ」と声を震わせている。
隣でアドルフに声をかけて落ち着かせようとしている長身の男性、クルトは同僚としてエリクと親しくしていたとのこと。
彼が死んだことには驚き、何故と少しばかり動揺していた。それでも、自分以上に狼狽えているアドルフを支えている。
そんな二人を他所に腕を組んでどっしりと構えている体格の良い男性、ダミアンはエリクと問題を起こしていた人物だった。
訓練では意見の対立でよく言い争いをしており、つい数日には取っ組み合いの喧嘩にまで発展したのだという。
ダミアンはエリクが死んだと知っても落ち着いており、「オレじゃねぇよ」と自分の無実をまず主張した。
会議室の長テーブルの席に三人は座りながら、三者三様の姿を見せている。その様子をレミリアの隣でクロノスは観察していた。
「お前たちは寮室も近く、アリバイもない」
「ランドルフ団長、確かにそうですが第一発見者も疑うべきではないのですか?」
「彼は雷属性の魔法は使えないし、同行者もいた。よって、今は除外している。君らの無実が証明されれば、捜査範囲を広げるつもりだ」
ダミアンの言い分にランドルフは落ち着いた返事を返す。今は分かっている範囲から容疑者を絞り込んで調べるしかないのだ。
この三人が無実だった場合には捜査範囲を広げて再度、絞り込まねばならない。外部者からの助力も視野に入れることにもなる。
「まず、君たちはエリクに対してどう思っていたか、聞いてもいいだろうか?」
「ダミアンはどうか知らないが、エリクはおれの親友だ。意見は合うし、付き合い方も嫌味がない。確かに強く主張することはあるけれど、嘘がつけない良い奴だよ」
「おい、オレが犯人みたいな言い方をすんじゃねぇよ」
アドルフのじとりと見遣る眼差しにダミアンが身を乗り出す。それを間にいるクルトがまぁまぁと制止させた。
それでもダミアンは喧嘩腰に「あいつの態度は気に入らなかったがな」と言う。
「合う奴は合うだろうけど、オレは気に入らなかった。あいつ、自分の意見を主張するくせに、他人の話を聞かねぇからな。嘘がつけないのはその通りだけど、少しは周囲の話を聞けってオレは思っていた」
上司の話は聞く癖に、同僚や後輩の話は聞かずに自分の意見を押し通そうとする。ダミアンはその点が気に入らなかったらしい。
注意をすれば言い合いになり、この前は取っ組み合いの喧嘩にまで発展してしまったのだと話した。
けれど、だからといって殺すほどでもないとダミアンは、「曲がりなりにも騎士なのだから」と再度、無実を主張する。
「オレを疑うならクルトだってそうだ。こいつだってエリクと相性最悪なんだぞ」
「と、言うと?」
「エリクには年の差がある妹がいるんだ。あいつは事あるごとに妹を自慢して可愛がっていたんだよ。溺愛していたから、そのことでクルトと言い争いになっていた」
クロノスの問いにダミアンは答えながらクルトへと目を向ける。彼は「それは関係ないだろ」と声を上げた。
「四六時中、暇さえあれば妹自慢をされれば、面倒にもなるだろ」
「はぁ? お前、妹を溺愛するとか気持ち悪い男だって言ってたじゃねぇか。何、聖女様の前だからっていい子ちゃんぶってんだよ!」
お前の本性なんて部隊内では有名だぞとダミアンは鼻で笑った。潔癖症でナルシストだってなと。
どうやら、レミリアが居るから猫をかぶっていたようだ。ダミアンに指摘されて、クルトは眉を寄せていた。
ちらりとランドルフに視線を向ければ、彼は呆れた様子で二人の言い合いを見ている。彼の耳にも入っているということだ。
「兄妹とはいえ、可愛がるなんて。溺愛する意味が分からない、気持ちが悪いんだよ」
「妹や弟を可愛がるのは普通にあることではないでしょうか」
血の繋がった弟妹を可愛いと思って甘やかすことはある。行き過ぎたと思う事はあっても気持ち悪いというほどではない。
明らかに倫理観から逸脱した行為をしているならばまだしも、ただ可愛がっていただけでしょうと、レミリアが指摘すれば、クルトは眉を下げながらも自分の発言を訂正はしなかった。
「陰で隠れてペンダントに入れた写真を眺めているんだ、気持ち悪いと思っても仕方ないでしょう」
「思う思わないは人それぞれですが。だからといって悪い事をしているわけでもないのに、そうやって口にするのは如何なものかと私は思いますよ」
聖騎士として騎士団に入っているのだ。家に戻れる人というのは決まっているので、年の離れた可愛い妹を心配することもあるはずだ。
お守りとして写真を持ち歩くことだってある。その行為を気持ち悪いと罵倒するのは違うとレミリアは注意する。
けれど、クルトは反省した様子を見せない。それどころか、「あいつが上司にはいい顔をするって嫌っていたのはお前だろう」と、ダミアンに食ってかかった。
「上司の言い分には文句も意見も言わずに素直でいい子ぶるのが嫌いだって言っていたのは、他の騎士たちも知っているぞ!」
「うるせぇ! 嫌いなもんは嫌いなんだよ! オレはお前みたいにいい子ちゃんぶってねぇ! 兄妹がいないから分からねぇだけだろ、妹を可愛がる行動がよ!」
「落ち着きないさい、二人とも」
殴り合うのではといったほどの罵倒し合いにランドルフが間に入る。それでも言い合いは収まらない。
これでは話が進まないなとクロノスが、どうしたものかと考えながら何気なくアドルフへと目を向けると、彼が不思議そうな顔をしていることに気づく。
「なんで、ペンダントのこと知ってんだ……?」
ぽつりと呟かれた言葉をクロノスは聞き逃さなかった。




