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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第七篇:聖騎士たちに紛れこむモノ

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第46話 死因は何か

 騎士に案内されてやってきたのは、死亡したエリクの寮室だった。騎士団員たちは寮で共同生活をするのが基本だ。


 団員の位によって一人部屋があてがわれるのだが、エリクはその一室で倒れていた。ベッドの脇、床にうつ伏せで目を見開いて。


 現場を保持するために騎士団第一部隊長のヘラルドが待機していた。部下二人に騒ぎを聞きつけてやってきた騎士たちを任せている。


 ランドルフの「状況は」という問いに、「すでに死亡しています」とヘラルドは返しながら、レミリアの隣にいるクロノスをじろりと睨む。


(敵対されているな)


 こういった状況でその態度はやめてほしい。クロノスはそう思いながらも口にはせず、ランドルフが室内に入ったのを見て、観察する。


 床にうつ伏せで倒れているほかに室内は荒らされた形跡はない。突然、発作が起きて倒れたような印象だ。



「お義父さま」



 クロノスが観察していれば、レミリアが室内へと入っていく。すっと、倒れるエリクの傍でしゃがみこんで言った。



「穢れの気配を感じます」



 ざわっと空気が変わった。外で耳を澄ましていた騎士たちが、「嘘だろ」と声を顰める。


 聖騎士団だというのに穢れに堕ちた人間が出たのだ。信じられないと驚くのは無理もない。


(騎士も所詮は人間だ)


 どうあっても人間なのだから、穢れの誘惑に負けてしまう者が現れても不思議ではなかった。



「なんと、聖騎士でありながら穢れの誘惑に負けるだと!」


「ヘラルド、落ち着け」



 ヘラルドは怒っているようだ。彼からしてみれば、聖騎士たるもの穢れに堕ちるなど言語道断なのだろう。


 ランドルフに「人間ならば仕方ないことだ」と言われても、ヘラルドは憤りを隠せないでいる。


 穢れが原因とあってはクロノスも捜査に参加せざる負えない。何せ、聖女の助手なのだから。


 ヘラルドの脇を通ってクロノスはレミリアの傍に寄れば、彼女はゆっくりと立ち上がった。



「ヘラルドさん、警察隊に連絡は?」


「もちろん、してありますよ。もう間もなくやってくるかと」



 レミリアとヘラルドの会話を聞き流しながら、クロノスはしゃがんで遺体を確認する。目を見開いて倒れているほかに外傷はないようだ。


(争った形跡はない……ん?)


 クロノスは首元に目を向けて、皮膚の異常に気付く。寝間着だろう服の襟元を捲ってみれば、樹状の図形が皮膚に浮かび上がっている。


 これはとクロノスは背中を見るために服の裾を持ち上げれば、樹状の図形が全身を這っていた。


(リヒテンベルク図形だ)


 リヒテンベルク図形とは、放電によってできる樹状の図形のことをいう。全身に電気が流れ、放電した部分がやけどとなることで図形になるのだ。


 電流に触れること、あるいは確率は低いが雷に打たれるなどすると身体に浮かび上がる。


(室内で落雷に合うことは殆どない。だからといって近くに電流を発生させる機器類はないのは、周囲を見れば分かるが……)


 今朝は雨も降っておらず、現在は晴天だ。雷など落ちた気配すらない。室内にも機器類は見当たらなかった。


(死因は恐らく電流が体内に流れたことによる感電死。では、どうやって?)


 どうやって、感電させる。雷属性の魔法を利用すれば、感電死させることもできるが、抵抗した気配はない。


 寝ている隙ならば、ベッドに倒れているはずだ。ベッドにも何かしらの痕跡が残っているはずだがと、クロノスが立ち上がって確認するが、特に異常はなかった。


 他に何か。クロノスが床へと目を向ければ、何か転がっていた。なんだろうかと近寄ってみれば、銀の丸型ロケットペンダントだ。


 クロノスは触れようとして、手を止める。



「クロノス魔導司書官、どうしました?」


「すまないが俺の周囲から人を引き離してくれ」



 クロノスの落ち着いた声音の指示にレミリアは訳を聞かず、ランドルフとヘラルドを部屋の外に出す。


 ヘラルドが何か言っているが、クロノスはロケットペンダントへ意識を集中させた。


 すっと息を吸って、指を鳴らすタイミングを計る。



「――――」



 クロノスは一つ詠唱をした。それは魔導司書官ならば知っている、呪詛などを解く魔法。


 唱えきって――指を鳴らす。


 ばちっと火花が散って、紫水晶の指輪が煌めく。瞬間、ロケットペンダントが跳ね飛んだ。電流を纏ってバチバチと。


 それから煙がもわっと出たかとおもうと大人しくなる。クロノスはそれを見てから、とんとんっと数度、ロケットペンダントを叩いて摘まんだ。



「それは……」


「凶器はこれだ。ロケットペンダントに雷属性の魔法が付与されていた。触れれば、強力な電流が全身を巡る」



 術を解いたので今は問題ないと、クロノスはロケットペンダントの裏を見る。一見すると何でもない。


 が、ぺらりと少しばかり捲れている。テープのようなものを取れば、そこには魔法印が刻み込まれていた。



「これは起爆の魔法に……雷属性の魔法を合わせているものですか」


「君の推察通りだよ、レミリア聖女。これは触れた時に発動するようになっていた」



 ひょこっと横から覗き見てきたレミリアにクロノスは話す。まだ魔法は機能していたので、触れていればさらに犠牲者が出ていただろうと。


 現場を動かさず保全に徹したのは良い判断だ。クロノスがそう言えば、扉の方から覗いていたヘラルドが眉を寄せていた。


 保全に徹するという至極当然なことをしたが、凶器の発見という手柄を取られてしまったのが複雑なようだ。


 (彼は気にしなくていいとして……誰がこの魔法を使ったかだ)


 まず雷属性の魔法が使える人間になる。聖騎士団の寮の警備は緩くはなく、外部から侵入するのは難しい。窓を確認してみるが、鍵は開いていなかった。


 疑うならば騎士の中となる。ロケットペンダントの中を見てみれば、少女の写真が入っていた。


(このロケットペンダントのことを知っていて、尚且つ雷属性の魔法が使える者が犯人だが……)


 雷属性は三大元素である火・水・地よりも扱える人間は少ないとはいえ、希少というわけではない。騎士団に入隊している者でも扱える人間は何人もいるはずだ。


(だが、これは上級魔法だ。扱えるということは、補助で使えるという人間は省かれる)


 雷属性をメインに扱っている熟練ないし、上級者。そこまでは絞れたが、何人いることか。


(ペンダントのことを知っているならば、ある程度は親しい仲のはず……)


 とは、考えてみるも確証はない。一先ずは分かっている範囲で絞ってみるしかなった。


 クロノスはランドルフに「雷属性をメインに扱い、熟練ないし上級者の騎士を招集してくれないだろうか」と、頼む。



「この魔法は上級魔法だ。訓練を積んでいる人間が怪しい」


「なるほど、急いで集めよう。その後に絞っていく方がいいな」


「ご協力感謝します」


「穢れが関わっているんだ。協力するのは当然だ」



 気にしないでくれとランドルフは笑みを見せてから、きりっと真面目な表情に戻し、ヘラルドに指示を出した。


(何か、他にあればいいのだが……)


 こればかりは第一発見者や彼と親しい仲だった騎士たちの話を聞くしかない。クロノスはロケットペンダントの蓋を閉じた。




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