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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第七篇:聖騎士たちに紛れこむモノ

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第45話 顔合わせをしていれば――

「いやぁよく来てくれた」



 にこにこと機嫌よさげにランドルフがクロノスを出迎える。騎士団長の執務室のソファに腰を下ろしながら、クロノスは人前で言う当たり障りのない挨拶をした。


 面倒だと思っていればも、口に出すわけにはいかない。クロノスでもそれは理解しているので、顔には出さないように相手の話に耳を傾ける。



「私の娘が急に言い出して驚いただろう。迷惑をかけてしまって申し訳ない」


「いえ、もう慣れました」


「クロノスさん、それ私が日頃から迷惑をかけているみたいな言い方してますよね?」



 じとりと見遣れてクロノスは眉を下げて、態度で答える。それを見たレミリアがむぅっと頬を膨らませた。


 あぁ、また機嫌を損ねたなとクロノスが思っていれば、ランドルフが「こら、レミリア」と彼女に注意をする。



「せっかく、お前の婚約者になってくれるかもしれないのだから、落ち着きなさい」


「私は悪くないですもん」


「お前がなかなか良い人を連れてこないから、お父さんは心配していたんだからな」



 全くとランドルフは腕を組んでクロノスの前に座った。対面してみれば、流石は団長と言うべきか。圧というのが少々、ある。


 クロノスは気に留めないが、気圧されてしまう人間は少なからずいるのではないだろうか。


 なんてことを思っていれば、ランドルフに「君は落ち着いているね」と言われた。



「私に気圧されないところがいい。ダーウィット殿から提案されてはいたが、少々不安だったのだ。だが、これなら大丈夫そうだな」


「お義父様。クロノスさんは人間に興味が薄いので大丈夫ですよ」


「レミリア嬢、言い方を考えてくれ」



 別に興味がないわけではない、気にしないだけだ。とは言っても、それは意味が同じですと返されて終わってしまう。


 そんな掛け合いをランドルフはにこにこしながら眺めている。どうやら、娘と仲良くしてくれているという認識のようだ。


(仲良くしているといえば、そうなのか……)


 ここ最近はレミリアと休日を過ごしている日が多い。懐かれているといえば、そうなのだが、仲良くしているという認識もできなくはなかった。



「クロノス君の噂は知っているよ、いろいろと」


「……それは申し訳ない」


「いや、ダーウィット殿に紹介されたら、父の顔を立てるために付き合うというのは仕方ない事だ。まぁ、言動は気を付けたほうがいいがな」



 軽く釘を刺された。クロノスは何とも渋い表情をしてしまう。娘は大切にしてくれよと、ランドルフは言っているのだ。


 あまりにも素直なクロノスの態度にランドルフが大きく笑った。なるほど、これは分かりやすいと。



「レミリアから聞いてはいたが、君は確かに良い意味で分かりやすいな。真剣な時は冷静で、けれどこういった時には素直だ。ある意味では信用できる」



 下手に気を使って態度を変えることもなく、相手がどういった存在でも自分を貫けるのだ。


 顔色を窺って媚びへつらう者よりも遥かに信用ができる。ランドルフの言葉にクロノスは「そうですか」としか返せない。


 一先ずは、好印象を取れているらしい。これは良いのか悪いのか、クロノスは何とも微妙な心境だった。


(本当に婚約者にさせられそうだな)


 ただ、猫に懐かれたと思っただけなのだが。なんて、クロノスは思うも言葉にはしない。



「お義父さん、あくまでも候補者ですよ」


「そうだがな、レミリア。この先、お前がクロノス君以外の男を連れてくるのが想像できないが?」



 ランドルフにそう言われて、レミリアは眉を寄せながら黙った。そこは言い返してくれないだろうかと、クロノスは突っ込みたくなる。



「まぁ、今日は軽く話をしたかっただけだから、畏まらなくていい。あぁ、そうだ。今度、妻と一緒に食事をしよう」



 予定はいつ空いているかねとランドルフに詰められて、クロノスは渋々といくつかの日付を伝えた。


 じゃあ、この日にとランドルフが決めようとして――



「団長! 大変です!」



 どんっと勢いよく扉が開いた。入ってきたのは、一人の騎士だ。彼は慌てた様子でランドルフに駆け寄っていく。


 その必死な形相に何かあったのは伝わってきた。緊張感が走る中、すっと表情を変えたランドルフが立ち上がる。



「どうした、何かあったか」


「エリクが、し、死んで……」



 騎士も動揺しているようで、上手く言葉が話せていない。ランドルフが落ち着かせれば、「エリクが死んでいるのを発見しました」と彼は答えた。



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