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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第七篇:聖騎士たちに紛れこむモノ

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第44話 父の手紙の内容

 婚活パーティーの事件は無事に幕を下ろした。が、クロノスにはランドルフの爆弾が残されていた。


 娘をよろしく頼む。それは聖女の助手としても含まれている。だが、他の意味も確かめるために、クロノスはレミリアをいつものカフェへと呼び出した。


 父に聞いたところで笑ってお終いなのは目に見えているからだ。



「お義父(とう)様にダーウィットさんは〝うちの息子と君の娘に縁を結ばせないか〟と、申し出をしたみたいですね」



 白いブラウスに紺色のロングスカートという可愛らしい私服姿で、レミリアはクリームたっぷりのパンケーキを頬張った。


 どうやら、ここ最近、クロノスが大人しくなったのは、聖女の助手となってからだと、ダーウィットは気づいたらしい。


 周囲からの二人の様子を聞きこんで、クロノスがレミリアには落ち着いた接し方をしており、彼女自身も懐いているようだったので、申し出たということのようだ。



「〝聖女の夫となれば、もっと大人しくもなるだろう〟ってお義父様は笑ってましたね」


「勘弁してほしい」


「なんですか、その嫌そうな感じは。私に失礼ではないですか」



 むぅっと頬を膨らませるレミリアにクロノスは「別に君に対してどうということではない」と、訂正する。



「君を一人の女性として見ていることに嘘はない。だが、周囲への対応が凄く面倒くさい」


「ほんっと、正直ですよね……クロノスさん」



 こういうのって面倒くさいとか言わないものですよと、レミリアに言われるがクロノスには関係ない。


 何度も言うが、公爵家であり、希少な魔導司書官という職についているので、地位だとか、名誉だとかに興味がないのだ。


 そもそも、そういったモノでレミリアを見るのは彼女に失礼だろう。なんて言えば、「そういうところですよねぇ」と、じとりと見遣られる。



「貴方はある意味、飴と鞭が上手いです」


「そうだろうか?」


「えぇ。話は戻して。私が先にやってしまったので、お義父様もダーウィットさんも喜んでいましたよ」



 クロノスは父が上機嫌であったのを思い出した。縁を結ばせようとしていたのだが、この展開は喜ばしいことだろう。


(女性関係で悪評を振りまいていた息子がやっと大人しくなるのだ。そりゃあ、上機嫌にもなる)


 はぁとクロノスは溜息を吐き出してから、珈琲を飲む。もう考えるのも疲れてしまったといったふうに。



「本当はパーティーで挨拶をする予定だったらしく、父から〝彼を連れてきてくれ〟と頼まれています」


「…………」


「その凄く嫌そうな顔、ほんと素直ですよね」



 ぱくりとパンケーキを頬張ってレミリアは言う。こういったクロノスの反応を彼女はあまり気にはしない。


 聖女だとか関係ない姿勢というのを好むからなのだろう。あるいは、彼女自身も面倒くさいと思っている節があるからかもしれない。


 なんとも気だるい感じではあった。自分でやったことだろうとクロノスが言えば、「そうなんですよねぇ」と軽く返されてしまう。



「お義父様ってちょっと過保護な感じなんですけど。私のことは信じてくださっているので、大丈夫だとは思いますよ」


「精霊に選ばれた君を養子にしたいと申し出た人間の中で、唯一だったか。選ばれたのは」


「はい。騎士団長ランドルフのみです」



 レミリアは事故で幼い頃に両親が他界している。その時から彼女は精霊に愛されていた娘だった。


 そんな子だから養子にしたいと申し出る貴族は多かったのだが、精霊の審査というのは厳しいものだったのだ。


 邪な考えを持てば罰が下り、力ない者には応えない。なかなか決まらなかったところに、ランドルフが名乗りを上げた。


 丁度、彼の妻は子を死産していたのだ。産めぬ身体にもなってしまい、妻はかなり精神的に落ち込んでいたのだという。


 一代限りの騎士爵とはいえ、我が子を失った悲しみは大きかった。当初は名乗りだすつもりはなかったランドルフだが、ある朝に妻が言ったのだ。


『夢で娘を育てていたの』


 夢とは思えないほどに現実的で、娘の容姿を聞けば、レミリアそっくりだったらしい。


 これは神のお告げかとランドルフは精霊の審査を受けたのだ。そうして、彼は精霊に認められて、レミリアの義父となった。


 そうクロノスは父ダーウィットから聞いている。それに間違いはないようで、レミリアも「私も夢を見たんですよ」と教えてくれた。



「お義父様が来る前日、新しい両親と出かける夢を見たのです。そこで、あぁ精霊に選ばれる人がやってくるのだなと、思ったんですよね」


「そうなのか」


「はい。夢というのは何かのお告げや、意味があるものだと私は認識しています」



 レミリアの話に頻繁とは言わないが見ていた前世の、死ぬ時の夢にも意味があるのかとクロノスは考える。


 ただ、あの一瞬を繰り返すだけなので、意味を連想しづらい。意味があるならば、いずれは分かるかと、クロノスは夢から現実へと意識を戻す。



「いつ、連れてこいと言われたんだ」


「今日です」


「……」


「そんな顔をしないでくださいよ。今日、貴方と会うと話したら、丁度いいから呼んできなさいって言われたのです」



 こればかりは仕方ないですよと、レミリアに言われて、クロノスは眉を下げた。


 確かに丁度いいのはその通りだからだ。会うならば、休憩時間に連れてきてくれとなるのは。


 レミリアは「もう少ししたら騎士団の休憩時間になりますから」と、言ってパンケーキの最後の一切れを口に入れた。



「それほど長くないですから、少し我慢してください」


「君の言い方も大概だな」


「お義父様の話しって、退屈な時としっかりした時の差が激しいので、得意じゃないんですよね」



 真面目な話をしている時は問題ないが、興味のない話題というのは退屈に感じてしまう。いくら、義父の話しでも。


 気難しい話というのも苦手なので、レミリアはそういった時は我慢するらしい。父親的には寂しいのではないのだろうか、なんていう言葉をクロノスは言わないでおいた。



「と、いうわけで行きましょうか」



 ミルクティーを飲み干してレミリアは立ち上がる。逃がす気はないようなので、クロノスは渋々と彼女に付き合うことにした。




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