第44話 父の手紙の内容
婚活パーティーの事件は無事に幕を下ろした。が、クロノスにはランドルフの爆弾が残されていた。
娘をよろしく頼む。それは聖女の助手としても含まれている。だが、他の意味も確かめるために、クロノスはレミリアをいつものカフェへと呼び出した。
父に聞いたところで笑ってお終いなのは目に見えているからだ。
「お義父様にダーウィットさんは〝うちの息子と君の娘に縁を結ばせないか〟と、申し出をしたみたいですね」
白いブラウスに紺色のロングスカートという可愛らしい私服姿で、レミリアはクリームたっぷりのパンケーキを頬張った。
どうやら、ここ最近、クロノスが大人しくなったのは、聖女の助手となってからだと、ダーウィットは気づいたらしい。
周囲からの二人の様子を聞きこんで、クロノスがレミリアには落ち着いた接し方をしており、彼女自身も懐いているようだったので、申し出たということのようだ。
「〝聖女の夫となれば、もっと大人しくもなるだろう〟ってお義父様は笑ってましたね」
「勘弁してほしい」
「なんですか、その嫌そうな感じは。私に失礼ではないですか」
むぅっと頬を膨らませるレミリアにクロノスは「別に君に対してどうということではない」と、訂正する。
「君を一人の女性として見ていることに嘘はない。だが、周囲への対応が凄く面倒くさい」
「ほんっと、正直ですよね……クロノスさん」
こういうのって面倒くさいとか言わないものですよと、レミリアに言われるがクロノスには関係ない。
何度も言うが、公爵家であり、希少な魔導司書官という職についているので、地位だとか、名誉だとかに興味がないのだ。
そもそも、そういったモノでレミリアを見るのは彼女に失礼だろう。なんて言えば、「そういうところですよねぇ」と、じとりと見遣られる。
「貴方はある意味、飴と鞭が上手いです」
「そうだろうか?」
「えぇ。話は戻して。私が先にやってしまったので、お義父様もダーウィットさんも喜んでいましたよ」
クロノスは父が上機嫌であったのを思い出した。縁を結ばせようとしていたのだが、この展開は喜ばしいことだろう。
(女性関係で悪評を振りまいていた息子がやっと大人しくなるのだ。そりゃあ、上機嫌にもなる)
はぁとクロノスは溜息を吐き出してから、珈琲を飲む。もう考えるのも疲れてしまったといったふうに。
「本当はパーティーで挨拶をする予定だったらしく、父から〝彼を連れてきてくれ〟と頼まれています」
「…………」
「その凄く嫌そうな顔、ほんと素直ですよね」
ぱくりとパンケーキを頬張ってレミリアは言う。こういったクロノスの反応を彼女はあまり気にはしない。
聖女だとか関係ない姿勢というのを好むからなのだろう。あるいは、彼女自身も面倒くさいと思っている節があるからかもしれない。
なんとも気だるい感じではあった。自分でやったことだろうとクロノスが言えば、「そうなんですよねぇ」と軽く返されてしまう。
「お義父様ってちょっと過保護な感じなんですけど。私のことは信じてくださっているので、大丈夫だとは思いますよ」
「精霊に選ばれた君を養子にしたいと申し出た人間の中で、唯一だったか。選ばれたのは」
「はい。騎士団長ランドルフのみです」
レミリアは事故で幼い頃に両親が他界している。その時から彼女は精霊に愛されていた娘だった。
そんな子だから養子にしたいと申し出る貴族は多かったのだが、精霊の審査というのは厳しいものだったのだ。
邪な考えを持てば罰が下り、力ない者には応えない。なかなか決まらなかったところに、ランドルフが名乗りを上げた。
丁度、彼の妻は子を死産していたのだ。産めぬ身体にもなってしまい、妻はかなり精神的に落ち込んでいたのだという。
一代限りの騎士爵とはいえ、我が子を失った悲しみは大きかった。当初は名乗りだすつもりはなかったランドルフだが、ある朝に妻が言ったのだ。
『夢で娘を育てていたの』
夢とは思えないほどに現実的で、娘の容姿を聞けば、レミリアそっくりだったらしい。
これは神のお告げかとランドルフは精霊の審査を受けたのだ。そうして、彼は精霊に認められて、レミリアの義父となった。
そうクロノスは父ダーウィットから聞いている。それに間違いはないようで、レミリアも「私も夢を見たんですよ」と教えてくれた。
「お義父様が来る前日、新しい両親と出かける夢を見たのです。そこで、あぁ精霊に選ばれる人がやってくるのだなと、思ったんですよね」
「そうなのか」
「はい。夢というのは何かのお告げや、意味があるものだと私は認識しています」
レミリアの話に頻繁とは言わないが見ていた前世の、死ぬ時の夢にも意味があるのかとクロノスは考える。
ただ、あの一瞬を繰り返すだけなので、意味を連想しづらい。意味があるならば、いずれは分かるかと、クロノスは夢から現実へと意識を戻す。
「いつ、連れてこいと言われたんだ」
「今日です」
「……」
「そんな顔をしないでくださいよ。今日、貴方と会うと話したら、丁度いいから呼んできなさいって言われたのです」
こればかりは仕方ないですよと、レミリアに言われて、クロノスは眉を下げた。
確かに丁度いいのはその通りだからだ。会うならば、休憩時間に連れてきてくれとなるのは。
レミリアは「もう少ししたら騎士団の休憩時間になりますから」と、言ってパンケーキの最後の一切れを口に入れた。
「それほど長くないですから、少し我慢してください」
「君の言い方も大概だな」
「お義父様の話しって、退屈な時としっかりした時の差が激しいので、得意じゃないんですよね」
真面目な話をしている時は問題ないが、興味のない話題というのは退屈に感じてしまう。いくら、義父の話しでも。
気難しい話というのも苦手なので、レミリアはそういった時は我慢するらしい。父親的には寂しいのではないのだろうか、なんていう言葉をクロノスは言わないでおいた。
「と、いうわけで行きましょうか」
ミルクティーを飲み干してレミリアは立ち上がる。逃がす気はないようなので、クロノスは渋々と彼女に付き合うことにした。




