第4話 従業員の証言(下)
店長であるコンラートは腰が低く、目上の人間にはこれでもかと低姿勢なのだという。
ミスすれば怒りはするけれど、それ以外では普通の人だった。ハングリッドは「意外と優しい人ですよ」と笑う。
「店長、太っていていつも眉間に皺寄せて不機嫌そうなんですけど、怖い人じゃないですね。仕事はきちんとこなすし、オーナー様とも友好的な関係でした」
「同僚のヘレンさんはどんな方でしょうか?」
「ヘレン? あいつはほんっと駄目な奴だよ。がめつくていつも金のことしか考えてない!」
ヘレンは親が作った借金を返すために必死で働いているが、とにかく金に厳しいのだという。節制しているだけでなく、少しでも金を稼げるならと働く日数と時間が多い。
少しでも食べ物などを粗末にしたり、ギャンブルの話をすれば怒鳴ってくる。
飲み会なんてものには「お金の無駄」と言って参加しない。ハングリッドはこれでもかとヘレンの悪口を言った。
「店長のお情けで働かせてもらっている身分でよく言ったもんさ」
「では、一緒にいたという宝石鑑定師のアンリッヒさんは……」
「アンリッヒは美しくて優しく、気配りのできる素晴らしい女性だよ!」
宝石鑑定師のアンリッヒは従業員としても働いている。自分の専門知識を生かしては良い接客をしているのだという。
店長や他の従業員からの評判も悪くない。ハングリッドは強調させた、とても良い人だと。
「彼女よりもおれはヘレンのほうが怪しいと思うね、絶対に!」
言葉強く発するハングリッドにクロノスはすっと目を細めた。
(明らかに印象の差がある)
ヘレンとアンリッヒへの印象差にクロノスは暫し考えてから、「最近」とハングリッドに問いかける。
「怪しい人物を見かけたとかはないだろうか? 些細なことでもいい」
「怪しい人だって? うーん、変な客人はいなかったな。広場前通りでうろうろしてたら、見回っている警察隊に捕まってしまうはずですよ」
「確かに広場前通りは賑わう広場の傍の店舗。広場で芸を披露している大道芸人や、フリーマーケットなんかもあるので、警察隊は定期的な見回りをしていますから……」
通報されて終わりますね。レミリアはうんうんと頷く。そうでしょうとハングリッドが同調する。
その姿を眺めながらクロノスは細めていた眼を少しばかり開きながら、「宝石なのだが」と口を開く。
「母から聞いたのだが、最近は特に希少な宝石を仕入れることが増えたと言っていたが、宝石鑑定師であるアンリッヒが関わっているのだろうか?」
「はぁ! アンリッヒが関わっているだって? それはここ最近の客人が面倒なオーダーメイドを要求してくるからだよ!」
ハングリッドは声を強めて答えた、彼女は何も関係ないと。最近は客が凝った注文をしてくるのだという。
難しいデザインや、希少な宝石を使ってほしいという注文に、様々な色を取り入れてほしいなど。とにかく細かい指定をしてくると。
どうやら貴族の間で珍しいデザインのジュエリーを見せるのが流行っているらしい。こっちは貴族の遊びに付き合わされているだけさと、不満げだ。
「貴方はオーナー様のご子息でしょう。それぐらいの話も聞いていないのですか?」
「俺はそういった貴族の遊びに興味がない。母上もその辺りを知っているので、俺に話してこなかったんだろう。君自身で何か気づいた点はあっただろうか?」
些細な事でもいい。クロノスの問いにハングリッドは片眉を下げながらも、考える仕草をみせてから、「そういえば」と口を開く。
「ヘレンが急にお金が必要になったと、店長に相談していたな」
どうやら、ヘレンはこっそりと店長であるコンラートにお金が必要になったと、どうにかできないか相談していたようだ。
たまたま、ハングリッドが立ち聞きしてしまったと証言する。金に困っているのは確かだとはっきり言った。
「もし、従業員に犯人がいるなら、おれはヘレンを疑うね! 金に困っているあいつならやるかもしれない」
自信満々に言い切るハングリッドにクロノスは吐き出しそうになる息を堪えて、そうかと頷いておいた。
その些細な行動にレミリアは気づいたようで、ちらりと視線を送りながらもハングリッドにお礼を伝える。
「ありがとうございます。他に思い出せるようなことはないのですよね?」
「そうですね。特には」
「では、ハングリッドさんはこの後に用があるとのことでしたからこの辺に」
こちらの会計は私がやっておきますので。レミリアがにこやかにそう言えば、ハングリッドは頭を下げながら席を立って足早に店を出て行った。
その素早さにクロノスは感心していれば、こほんと咳ばらいをされてしまう。
「何か気づきましたよね?」
「そうだな。明らかな印象の差に聖女様は気づいただろうか?」
「それには私も気づきました」
ハングリッドはアンリッヒの事になると人が変わったように饒舌になる。彼女の事は文句なしに褒めて、他は自分の印象で答えているといったふうだ。
「少しばかり揺すってみれば、反応があからさま過ぎて溜息が零れそうだった」
「クロノス魔導司書官は彼を疑っているのですか?」
「確証はない。ただ、アンリッヒという宝石鑑定師に疑いを向けたくないという思考は透けていたな」
あのあからさま言動を見れば分かることだ。クロノスの返答にレミリアは確かにと頷く。彼女から見てもそう感じたのだろう。
問題はハングリッドが何か知っているのか、どうかだ。犯人に関わる情報を持っているからアンリッヒから疑いを逸らしたかったのか。それとも、ただ彼女はそんな人間ではないと信じているから出た行動なのか、そこが焦点となる。
「アンリッヒという人物から話を聞いてからだな、まずは。彼女の反応が知りたい」
「では、待ち合わせの十五時までは待機ですね」
「その時間まで解放してくれる気は?」
「ありません」
にこりとそれはもう清々しい笑みを浮かべるレミリアに、休息すらもないのかとクロノスは片眉を下げた。




