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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第六篇:パーティー会場は死に落とされる

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第38話 成り行きに任せるしかない

「申し訳ないとは私も思っているのですよ」



 ジルベール第二王子が主催する婚活パーティーの当日、昼前の十一時過ぎ。


 クロノスは会場であるヘメロカリス会館の傍にあるカフェにいた。


 ミルクがたっぷりと入った紅茶を飲みながらレミリアは言う。白を基調としたドレスを綺麗に着飾っている彼女は、いつでもパーティーに出れる姿だ。


 クロノスも黒い正装姿できちんとした姿をしているが、あまりそういった装いをしないので着慣れていない。



「あの場を切り抜けるには一番だと思ったんですよ」


「その結果、俺は聖女にまで手を出した男として噂が広まったがな」



 クロノスはレミリアの「〝婚約候補者〟として招待します」発言によって、治まりつつあった女性関係の噂が最熱してしまっていた。


 あの男は令嬢では満足できず、とうとう聖女様にまで手を出したのだと。


 そもそも、令嬢と付き合いはしたが、手は出していない。下手にそんなことをすれば、別れる時に揉めるのを理解しているからだ。


 なんてことを言えば、きっと「最低ですね」と返されるので、クロノスは口には出さない。


(シルヴァリア殿が言っていた女難の相はこれか……)


 ランドールが再び現れて、レミリアによって巻き込まれた。シルヴァリアが言っていた通りになっている。


 あの後、レミリアの発言にヘラルドが「認めない!」と大声を出して、ちょっとした騒ぎになった。


 騒ぎを聞きつけて騎士団長であるランドルフが仲裁に入ってくれたことで、場は落ち着いたがそれがきっかけで広まっている。



「でも、ポジティブに考えれば、女性除けにはなりますよ?」


「メリットよりもデメリットのほうが大きいだろう」



 女性除けになるのは当然だ。聖女が選んだ存在として、人々は一線を引くだろう。


 下手に媚びを売れば、聖女を見守る精霊からの裁きが下ってしまうからだ。


 聖女の夫として優遇されることも増える。だが、それと同じく〝期待を裏切る〟ようなことが許されない。


 他所の女に靡くことも、下手な悪さもできない。騎士たちの嫉妬を一心に受け、ちょっとしたことを指摘されて責められることもある。


 はっきり言えば、そういった対応が面倒くさい。クロノスの言葉に「貴方ってほんっと無欲ですよね」とレミリアに言われてしまう。



「聖女の婚約候補者に選ばれたなんて、騎士たちならば喜ぶどころか名誉なことだと誇りますよ」


「そんなことをする相手を君は選ばないだろう」


「はい、選びません」



 即答。レミリアは頼んでいたスコーンを頬張りながら、「私はそういった相手が苦手なので」と、さらりと言う。


 聖女なのだから、そういった対応をされてしまうのは当然ではないだろうか。なんて突っ込みを彼女は受け入れない。



「君だって取り返しのつかないことをしているのを理解しているのか。下手に俺を切り離せなくなったのだぞ」



 聖女の婚約候補者として選んだ以上、下手に切り離せば余計な噂が立ってしまう。


 クロノスに非難が行くのと同じく、あんな男を選んだとレミリア自身も悪く言われるのだ。


 レミリアは一人の人間の人生を握り、聖女としての評判を賭けている。


 危ない橋を渡っている自覚があるのか、クロノスの指摘に彼女は「分かっています」と答えた。



「何かあったとしても、クロノス魔導司書官が悪者にならないようにします。これは私が勝手にやったことですので、その責任は取ります」



 これは自分が勝手にやって巻き込んだことだ。その責任は取らなければならないので、安心してほしい。レミリアは真っ直ぐな眼を向ける。


 彼女は嘘がつけない。クロノスは「仕方ない」と一つ息を吐き出してから、珈琲を飲む。



「これは貸し一つということにしてもらおうか」


「わかりました。精霊たちもそれでいいと言っていますので」



 蛍火がレミリアの周囲を舞っている。精霊たちも彼女の行動を許しているようだ。


 過保護のような印象があるのだが、自分のような女性関係の悪評がある相手でいいのかといった疑問を抱く。



「君は俺で良かったのか」


「そうですね。今まで関わってきた男性の中ならば、貴方以上はいませんね」



 聖女として対応するでもなく、そういったことを気にすることもない。


 もちろん、建前はやってのけるが、媚びるわけでも、主張するわけでもなかった。


 落ち着けて、気軽に話せるのは男性で言うならば、クロノスだけとなる。レミリアは「精霊も貴方の行いは認めていますよ」と話す。



「ちゃんとやることはやってのけている人間だって」


「君に対して嫌な事もしていないからだろうな」


「はい。まぁ、貴方に恋愛感情を抱いているかと問われると微妙なんですけど。少なくとも、他の男性と縁談を申し込まれるよりは遥かに良いです」



 きっぱりと言いのけるレミリアにクロノスは苦笑する。


 恋愛感情は微妙で、他の男よりは遥かにマシだと言われて、複雑にならない人間はいないのではないだろうか。


(まぁ、俺も彼女に恋愛感情を抱いているかと問われると、はっきりは言えないから、同じか)


 嫌いではない。ただ、今の感情を言えば、猫に懐かれたような感覚だ。放っておけない存在としては見ているが、恋愛感情かと問われれば答えられない。


 こういった心境だから付き合い切れているのかもしれないし、レミリアも〝男除け〟として選んだのだろう。


(好みか好みでないのならば……どうだろうな)


 猫は嫌いではないけれど。なんてぼんやりと考えていれば、スコーンを食べ終わったレミリアが懐中時計を確認していた。



「クロノス魔導司書官、もう少しで時間です」


「……そうだな」


「そう、嫌そうにしないでください。私も面倒くさいと思っているのですから」


「誰がさらにややこしいことにした?」


「私ですね。では、行きましょうか」



 よっと立ち上がるレミリアにクロノスは片眉を下げながらも腰を上げた。彼女に何を言っても無駄なのだ。



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