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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第四篇:歌劇団員の死に遭遇し――

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第27話 犯人の手がかり

 全員が正直に答えているのであれば、一番に疑われるのはカスペルだ。彼は被害者の楽屋を訪ねている。


 けれど、犯人が素直に証言している場合というのはそう多くない。大抵は〝本当の事に嘘を交えて〟証言している。


 本当の事に嘘を交えると見破りにくくなるのだ。なので、クロノスは全員が正直に答えているとは考えていない。


(これも刑事の経験か)


 意外と役に立つものだなと思いながら、クロノスは容疑者である四人の様子を見る。彼らは顔を見合わせながら、不安げにしていた。


 カスペルのみ、レナントに食って掛かっている。疑われたのだからそういった反応をしてしまうのも無理はない。



「君たちが知っている範囲でいいのだが。ハンナという舞台女優は誰かに恨まれるようなことをしたのだろうか?」



 クロノスの問いにクラーラは分からないといったふうに首を傾げ、リベラータは考える素振りをみせる。


 カスペルも何かあったかと呟きながら腕を組んでいるが、エルマは思い当たる節があるようで、なんとも言い難い表情をしていた。


 それを見逃すわけもなく、クロノスは「思いつくなら教えてほしい」と、エルマに問いかければ、彼女は渋々といったふうに答える。



「ハンナちゃん、本当は月姫シリーズの妹役には選ばれないはずだったの」


「え! ど、どうしてですか?」



 エルマの発言に思わずレミリアが声を上げる。月姫シリーズの妹役の演技としてはぴったりだと感じていたからだろう。


 そんな反応にエルマは「入院中のもう一人の子が」と、言いにくそうに教えてくれた。


 今、長期入院している舞台女優にロレッタという女性がいる。彼女は二十歳ではあるが、童顔で愛らしい顔立ちをしていた。


 見る人たち全員が「彼女が妹役に相応しい」というほどには、容姿だけでなく、演技も完璧だったのだ。



「ただ、舞台照明の事故で大怪我を負ってしまって……。あぁ、命に別状はないの。顔や足、腕といった機能に異常もないわ。ただ、それでも怪我は酷いものだったから、入院中なのよ」



 落ちてきた照明にぶつかったロレッタは頭を強く打ち、腹部と足を負傷した。身体機能には問題ないので、治療をし、退院すれば再び劇団に戻ってこられるとのこと。


 ただの事故ならば、恨まれるのは整備を担当していた裏方ではないだろうか。そんな疑問に「噂があって」とエルマは付け加える。



「舞台照明に細工をしたのはハンナじゃないかって……」


「噂の理由はあるのだろうか? 細工をしたのを見たなど」


「それはないの。でも、あの時って丁度、月姫シリーズの新作の妹役選抜だったのよ。で、事故が起こるタイミング、本当はハンナちゃんの番だったから」



 事故が起こるタイミング、本来の番であるハンナは気分が悪くなったと、少し休ませてほしいと言い出したのだ。


 顔色は悪く身体が震えていたのもあって、劇団に所属している保険医から少し休むようにと指示を受けたと。


 ハンナの次がロレッタだったので、彼女が先に繰り上がったのだ。そして、事故が起こった。



「いつもやる気のある彼女が急な体調不良を起こしたから、女優の間でちょっと噂になったのよね。ハンナちゃん、月姫シリーズの妹役に絶対になりたいって言ってたから……」



 絶対になりたいからライバルを減らしたのではないか。そんな噂がひっそりとされていたのだと、エルマは死人に対して悪くは言いたくない様子で視線を逸らす。


 これはとクロノスがソフィアへ目を向ければ、彼女も複雑そうな表情をしていた。どうやら、噂を知っていたようだ。



「ソフィア嬢、貴女は何か知っているだろうか?」


「いえ……。噂は聞いたことあるわ。でも、噂は噂だからと特に気にしてはいなかったの……」



 ソフィアも噂は聞いていた。けれど、確証があるわけではないので、気にすることもなかったのだという。


 表立って広がったわけでもなかったからと。この噂は女優内だけでひっそりとされていたので、男優には伝わっていないかもしれない。


 それを聞いてカスペルにどうだろうかと問いかければ、「あー、詳しくは知らないが」と、一時期の間は女優内の空気が悪かったとカスペルは答えた。



「なんかやらかした子がいたのかと、あんまり気にしてなかったんだが……。そんなことになっていたんだな」


「裏方側はどうだ?」


「え、え……わ、わかりません……。リベラータさん、どう?」


「アタシはちょっと聞いたぐらいよ。詳しくは知らないわ」


「そうですよね……。ワタシもあれって演出時の火属性魔法で釣り上げていたロープが劣化してたって聞いたし……」



 裏方の間では演出時の火属性魔法が原因なのではないかということになっているようだ。


 クラーラは「ワタシは専門属性じゃないので」と、詳しいことは聞いてないのだと俯いた。



「リベラータさんは聞いてます?」


「クラーラと同じよ。アタシだって専門じゃないんだから知らないわ。」



 リベラータも話は聞いていないようだ。手袋の上から掌を掻きながら、何も知らないと答えている。


 裏方への説明は演出時の火属性魔法によるロープの劣化となっているようだ。ロープが燃えた形跡があったということなのだろう。


 クラーラが言うには、火属性魔法を扱える役者及び裏方が集められて、注意と説明をを受けたらしい。


 ふむとクロノスは証言を脳内でまとめていく。レミリアの意見も聞こうと彼女に目を向けて、首を傾げた。



「どうした、レミリア聖女」


「いえ、指がチクチクしてちょっと痺れているなと……」



 レミリアは人差し指と親指を掻きながら話す。指先を見せてもらうと、少しばかり赤くなっていた。


(これは……凍傷の初期症状か)


 何故と考えて、レミリアは素手で遺体に付着していた霜を随分と触っていたことを思い出す。


 クロノスは自分の指も確認してみるが、少しばかり痺れるぐらいでレミリアのように皮膚の色は変わっていなかった。


(氷属性魔法で生み出した氷だ。なかなか、溶けることはなく、魔力を帯びている故に素手で触れば凍傷してしまう……。これは)


 一つ、クロノスは思い浮かんだ。もしかしたらと。


 だから、クロノスはもう一度、確認をした。



「すまないが、君たちの中で火属性魔法を扱えるからと集められた人間はいるだろうか?」



 その問いに四人は首を左右に振った。自分たちは火属性魔法を扱えないのだと言って。


(さて、後は〝証拠〟を提示してもらうだけだが……。俺の推察は当たっているだろうか)


 クロノスはすっと目を細める。この推理が当たっていることを祈るように。



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