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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第四篇:歌劇団員の死に遭遇し――

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第26話 容疑者は絞られる

 劇場内にある会議室に関係者は集められていた。男女合わせて十人ほどいたが、人数が多くまず容疑者を絞ることにクロノスはする。


 レナントが一人一人聞こうとするのをレミリアが止め、クロノスは「この中に」と集められた関係者へ問いかけた。



「氷属性魔法が扱える者はいるだろうか?」


「どういうことかね、クロノス殿」



 ぎろっと見遣るレナントにクロノスはレミリアと遺体の状態を確認し、分かったことを彼に共有する。


 傍に居た警察隊がこそっと耳打ちをしているので、同じ報告がされているのは間違いないようだ。


 一先ずは聞く姿勢になったレナントに「扱える者である必要がある」とクロノスは断言した。



「何故、そうなる。保冷用の氷を使ったかもしれないじゃないか。あれは氷属性魔法から生み出されたものだぞ」


「俺たちが室内へ入った時の事だ、部屋全体が冷えていた」



 ソフィアが扉を開けた時、冷えた空気が身体を這った。クロノスはそうだろうと二人に問えば、レミリアは「その通りです」と頷き、ソフィアは「冷たかったわ」と同意する。



「魔法で氷を生み出す過程で起こる、冷気を凝縮する時に発せられた空気の冷たさだ。それはつまり、〝室内で氷属性魔法を使用した〟ことになる」



 氷を魔法で生み出す時、冷気を凝縮させる。その時に周囲の気温を下げてしまうのだ。


 室内に入ってからもまだ冷えていたのを考えるに、犯行から時間はそれほど経っていない。


 クロノスの推察にレナントはむぅっと眉を寄せるけれど、報告をしてくる部下の隊員の話と照らし合わせてか、黙って聞いていた。


 劇団員及び裏方で氷属性魔法を使える者が室内に残される。四人の容疑者たちにクロノスはほうと小さく呟く。



「氷属性魔法をちゃんと扱える者は比較的、少ないのだが」


「うちは演出で雪を降らしたりするので、氷属性魔法を扱える人が多いの」



 クロノスの疑問にソフィアが答えた。彼女も扱えなくはないが、氷の塊を生み出すほどまではできないらしい。


 魔法で使える属性というのは魔力の質と身体能力によって変わる。全てを扱えるものは片手で数える程度だとも言われおり、一般的には一属性だけというのが多い。


 火・水・地・氷・雷・闇・光の七属性から魔法は成り立っている。その中で三大属性と呼ばれる火・水・地は扱えるものが多く、一般的だ。


 その次に雷ときて、氷となる。闇と光は極端に少ない。光属性の魔法が使える者は騎士団への推薦が取れるほどだ。



「残った君たちは基礎以上の氷属性魔法を扱える、そういう認識で間違いないな?」



 クロノスの問いに残った四人は頷いた。それは恐る恐るといったふうに。


 疑われているのだから恐れるのも、苛立ちを抱くのも当然だ。彼らの態度をクロノスは見ながら、一人一人の話を聞くことにする。



「まず、君からお願いしたい。役職と名前を」


「あ、あたしはエルマと言います。役職は役者で主に脇役をメインに演じています」



 ふわふわの青く長い髪が特徴的な彼女、エルマは丸眼鏡を押し上げながら答える。少しばかり不安げな表情だが、それでもしっかりと話ができていた。


 ハンナと会ってからその後はどうしていたかといった問いに、「あたしは廊下ですれ違ったの」と、その時の状況を話す。



「公演が終わって……観客が舞台から退場した後かしら。あたしは楽屋に戻る途中だったわ。その時にハンナちゃんとはすれ違って、少し話したの」



 エルマの楽屋は廊下の突き当りで部屋に入る前に、角を曲がった奥からハンナがやってきたのだという。


 一番、奥の楽屋の事について、「くじ引きに負けたの悔しいわ」と愚痴っていたらしい。


 でも、聖女様に会えるかもしれないから我慢するのと、それはもうわくわくした様子だったとエルマは証言する。



「お手洗いに行くってことだったから……十五分ぐらいでまた楽屋に戻ったんじゃないかしら?」


「その後は会っていないということで間違いないでしょうか?」


「えぇ、楽屋で着替えていたから」



 レミリアの問いにエルマは頷く。着替えをしていたし、終わったあとも化粧を整えていたりして楽屋から出てはいないと。


(俺たちがソフィア嬢の楽屋を訪ねたのは、舞台から出て、客が劇場を出て行く最中だった)


 その時に廊下に人気は無く、ソフィアと楽屋で話していたのは長くとも三十分ほどだ。


 合計して約一時間以内に殺人が行われている。検死の結果も大体、その時間帯なのはレナントの「一時間の内の十五分か」という呟きで分かった。


(こういう時に科学技術というのが便利だと実感できるな)


 前世の世界の便利さというのをクロノスは思い出す。とはいえ、魔法も違う便利さがあるので一概に優越はつけられない。



「次に君は?」


「お、オレはカスペル。役職は俳優で、敵役を主に演じている」



 金髪をオールバックにした少しばかり厳つい顔立ちの青年、カスペルは「オレは彼女の楽屋に差し入れを渡しに行ったんだ」と答える。


 劇団員なのでファンからの差し入れが贈られる。スタッフが検品してから楽屋に置かれるのだが、ハンナの差し入れが紛れていたのだという。



「それを渡した時はピンピンしてたぜ、ハンナ。聖女様に会えるかもしれないから! って、テンション高くてな」


「どれほど会話をしたか覚えているだろうか?」


「五分ぐらいか? それぐらいだな。すぐにオレは楽屋に戻ったんだ。エルマが会った後じゃねぇかな」



 オレが楽屋を訪ねた時にはハンナは居たからとカスペルは証言する。落ち着きがないのか、頭をがしがしと掻いていた。


 話を聞いてクロノスが次はと目を向ければ、びくりと肩を跳ねさせたスタッフらしい女性が「すみません」と怯えた様子を見せる。



「クロノス魔導司書官、怯えさせないように。スタッフの方ですよね? お話ください」


「わ、ワタシはクラーラと申します。役職は舞台演出者で、主に雪や雨といった自然描写の演出を担当してます……」


「貴女はどのタイミングで会ったのですか?」


「ワタシはお手洗いの前で会いました……」



 ぼさっとした茶色の髪を大雑把に結ったクラーラは、作業用の手袋を袖を弄りながら答える。


 お手洗いの前を通った時に丁度、ハンナが出てきたのだという。そこでは次の舞台の演出に関するお願いを言われただけで、すぐに別れたと証言した。



「ちょこっと話しただけなのですぐに別れました……」


「変わった様子もなかったのだろうか?」


「と、特には……」



 クロノスが話しかけるとびくびくするクラーラに、レミリアがじとりと見遣ってくる。


 俺は何もしていないが、と言いたげにしていれば、最後の証言である女性が「この子、男性が怖いだけだから」とフォローが入った。



「クラーラは知らない男性、特に高身長が怖いのよ。だから、気にしないで」


「……そうか。では、君は?」


「アタシはリベラータ、役職はクラーラと同じよ。私がハンナと会ったのは彼女が楽屋に戻る時だわ」



 短い黒髪がボーイッシュに見えるリベラータは赤と青の左右色違いの手袋をつけており、演出時の魔法で若干、片方の指先が焦げていた。いかにも演出担当といったふうだ。


 リベラータが言うには上機嫌で廊下を歩いていたという。何か良い事でもあったのかと声を掛けたら、「聖女様に会えるかもしれないの!」と笑顔で返されたと。



「楽屋で会ったのはカスペルだけということは、お前が一番、容疑者に近いな」


「はぁ? オレは殺してなんかいねぇよ!」



 話を黙って聞いていたレナントが疑いの眼差しを向けた。そのあからさまな態度にカスペルが反発するように声を荒げる。


 露骨に揺さぶるのはやめてほしい。クロノスは前世の嫌な記憶を呼び起こしてしまう。部下の下手な揺さぶりで犯人を逃がしたことを。


 何処の世界でもこういう人物はいるのだなと、クロノスは吐き出しそうになる溜息を飲み込む。


 現状、楽屋を訪れたのはカスペルただ一人だ。けれど、クロノスは思う。それはあくまでも〝全員が正直に証言している〟場合だけだと。



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