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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第三篇:魔導書は何処へ?

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第22話 割に合わない

 図書館へと戻ったクロノスはすぐにダフネル館長の元へと向かい、今日の出来事を報告した。


 禁書となりえる現象にダフネル館長は「すぐに再検品しよう」と、検品課へと魔導書は引き渡されて、この紛失事件は幕を下ろす。


 あとは検品課の担当なのでクロノスには関係ない。のちの対応に関してはダフネル館長が決め次第、知らせるとのことだった。


 あとは本来担当するはずだったローランドに任せることにしたのだ。


 第一魔導書室に戻って貸出カウンターでだらけているローランドにそう言えば、それはもう嫌そうな顔をされる。



「嫌なんだけどぉぉ」


「俺は十分に対応した。あとはお前が引き継げ」



 お前のミスを報告していないだけありがたく思えと言えば、ローランドは渋々と納得する。ダフネル館長には叱られたくはないのだ。


 どんなに希少な魔導司書官でもミスをすれば減給処分はあるわけで。ローランドは「父に怒られるのを回避できるなら」と。



「お前に任せといてよかったと思うしなぁ」


「迅速に封書対応できたんですよね……さすがです、クロノス魔導司書官」


「封書とは、なんですか?」



 シャンタルの言葉にレミリアが首を傾げる。彼女は聖女とはいえ、魔導書に詳しいわけではないのだから、知らなくても無理はない。


 クロノスは「封書とは封印作業のことだ」と教える。魔導書による魔法の発動を停止させて、本自体を封印することを仕事用語で封書と言うのだ。


 これができるのは魔導司書官と訓練を積んだ魔導士のみだ。聖女もできなくはないだろうけれど、基本的には専門家しかできない。



「封書を迅速にできない者は魔導司書官にはなれない。ローランド(馬鹿)もできる」


「馬鹿は余計だろー。クロノスほど迅速丁寧にはできないって」



 集中力を維持し、周囲への被害を最小限に、詠唱の種類を決める。全てを素早く丁寧にというのは魔導司書官でもなかなかに難しい。


 ローランドは「僕も気を付けてはいるけれど」と、クロノスほど丁寧にはできないと言い切った。


 クロノスはローランドが雑に封書作業をしているとは思ったことはない。だが、本人に「お前のは真似できない」と断言されては、反論するのも躊躇われてしまう。



「お前はちゃんとできているのだから少しは自信を持て」


「お前の優秀さと比べるなっていうのが無理なんだよ。まぁ、説教回避できたからいいけどねぇ」


「つ、次からは気を付けてくださいよ、ローランド魔導司書官」



 来月もミスをしたら流石の館長も叱るしかない。シャンタルの注意にローランドは気を付けますと返事するしかなかった。


 さて、要件は終わったのだ。この後はレミリアの対応をしなくてはいけないと、クロノスが彼女を見れば、そわそわと落ち着きがなかった。


 少しの間。クロノスは思い出す、そうだ約束の〝ラフォール歌劇団の最前列チケット〟が残っていたと。



「ローランド、約束は覚えているだろうな?」


「ラフォール歌劇団の最前列チケットだろー。大人気の月姫の演目でしたよね、レミリア聖女様」


「はい! 夜風に舞う月姫のチケットです!」


「今日、姉さんに言っておきますので……早くて明後日には届くと思いますよ」



 夜風に舞う月姫の公演は週末の二日だ。その中でも末日が特に混むわけだが、どちらかは優待で取れるだろうとローランドは話す。


 家族優待という待遇がラフォール歌劇団にはあるのだと教えてくれた。そのチケットで友人を招待することも可能だと。


 ローランドは「聖女様が来るって知れば、劇団員みんな喜びますよ」と、レミリアの人気を語る。凛々しい女性のモデルにもしているぐらいだということを。



「凛々しい?」


「クロノス魔導司書官」


「……いや、何でもない」



 凛々しいに思わず疑問符をつけてしまったクロノスに、レミリアがじとりと見遣る。


 聖女の時ならば、確かに凛々しい姿をしているな。そうクロノスは納得することにした。休日の彼女は何処とも変わらない一人の女性だったことは黙っておく。



「私をモデルにしてくださっているなんて、とても嬉しいですね! あぁ、ぜひ姫役のソフィアさんにご挨拶をしたいです」


「ソフィアは僕の姉さんですよ」


「え」



 ローランドの言葉を一瞬、飲み込めずにぽかんとした表情を見せたレミリアだったが、すぐにはっと我に返って彼に詰め寄った。



「あのソフィアさんの、弟さんなんですか!」


「そ、そうですが……」


「ご挨拶とかってできたりしませんか!」



 直接、感想を伝えたいのですとレミリアが目を輝かせながらお願いをすれば、ローランドは「姉さんに聞いてみます」と彼女の押しに負けた。


 それはもう喜ぶレミリアの様子にローランドとシャンタルは驚いている。いつも落ち着いている聖女の時の姿しか知らなかったからだろう。


 ローランドがこれはと言いたげに見てきたので、クロノスは「これが彼女だ」とだけ返しておいた。



「クロノス魔導司書官! 週末は空けてくださいね!」


「俺にも仕事はあるのだが。そもそも、他の友人を誘うという考えはないのか」


「ラフォール歌劇団の最前列チケットは貴方がお礼として貰うものでしょう。貴方がいないのは良くないかと」



 なんだろうか、それはそうなのだが、納得できない感じは。クロノスは何か言い返してやろうかとも思った。


 が、にこにこと上機嫌な彼女の周囲を舞う蛍火となった精霊を見て黙った。


 なんとなくだが、「可愛い娘を悲しませたらどうなるか、分かってるわよね?」という圧を感じて。



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