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クロノス魔導司書官の事件録―悪評公爵令息は聖女の助手となる―  作者: 巴 雪夜
第三篇:魔導書は何処へ?

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第20話 噓つきは誰だ

 部室で待つこと数十分、ヘルマンニが二人の学生を連れてきた。


 ミルクティーのような淡い色の髪が緩やかに波打つ女子学生と、頭に布を巻いて土で汚れている顔を拭う男子学生は困惑した様子を見せている。


 レミリアがいることが原因なようだ。クロノスは「彼女の事は気にしなくていい」と伝えてから魔導書の件で聞きたいことがある二人に問う。



「五人でテーブルの上に置いたのは確認したんだな?」


「はい。あたしたち全員で見てますね。そうよね、リリック」


「あぁ、カルメンの言う通りだよ。アリソンが最後に本を閉じて置いたんだ」



 二年生の女子学生はカルメン、男子学生はリリックと言うようだ。


 緩やかに波打つミルクティー色の髪を耳にかけ直しながら、カルメンは「その後に外に出て野菜と鼻の手入れをしたの」と証言した。


 これにはその場にいた部員全員が頷く。ヘルマンニはその場にいたのかという問いに「わたしは職員会議が入ってね」とサークル活動終了時刻まで戻ってこれなかったと答える。


 話を聞くに手入れが終わった後から無くなっていた。では、その間に何かあったはずだと、クロノスが五人に問いかける。



「手入れが終わってから無くなったと気づくまでの間、どうだったのかを教えてほしい」


「どうって、収穫した野菜を籠に詰めて扉の方に運んだり、道具片付けてたりだけど……」



 いつもの手入れが終わった後、収穫した野菜が思った以上に量があったらしい。


 それを仕分けして籠に入れては扉の方に運んだり、使った道具を片付けたり、汚れた箇所の掃除を各々がしていたと、デニスは思い出しながら話す。


 それに他の四人も「そうそう」と頷いた。ここまでで五人の証言に違いはない。これだけでは情報が足りないので、クロノスは聞き方を変えてみた。



「では、〝誰かの行動〟は見ていただろうか?」


「誰かの?」


「例えば、彼が何をしていた、何処にいたといったものだ」



 覚えているかぎりでいいと言われて、それならとデニスが「おれは仕分けをしていた」と、自分は扉側に近い場所に居たと話す。



「アリソンは見かけてないが、カルメン先輩とリリック先輩がテーブルの傍に居たんだ」


「待って、私は水やりに使った道具を片付けるために外にいたよ!」



 デニスの証言にアリソンが慌てて答える。自分はみんなが室内に入ってから外の物置に水やりや肥料を与えるために使った道具を直しに行っていたと。


 外に居たからわたしじゃないとアリソンは半泣きになりながら主張している。それに対して、カルメンが「あたしでもないわよ!」と胸を叩いて前に出た。



「あたしはテーブルの傍にある本棚に、今日使った肥料の成分や分量が載っていた本を仕舞っていたのよ。テーブルに置いてあった本に一番近かったのはリリックよ! 怪しむならそっちでしょ!」


「はぁ! ぼくはテーブルの傍にはいたけれど、汚れた床を拭いていたんだよ! 本からは目を離していた! カルメンだって近かったんだから、そっちが怪しいだろ!」



 何よとカルメンが隣に立つリリックに詰め寄っていく。負けじと彼も強気な姿勢を見せていた。睨み合う彼らをヘルマンニが「落ち着きなさい」と止めに入る。


 そんな中、セリオが「オレは道具を片付けていた」と答えながらじろりと二人を見遣った。何とも言いにくそうに。



「カルメン先輩とリリック先輩は傍に居なかったよ。どっちかが嘘をついているじゃないんですか?」



 またしても火種が飛んでいく。カルメンとリリックがはぁっと大きな声を上げて、セリオを見た。悪鬼が睨みつけるような眼力で。


 お前まで疑うのかと責めていく二人をヘルマンニが押さえるが、勢いが止まらない。クロノスはその光景を呆れながら眺める。


 これではまともに話ができないではないか。どうしたものかと腕を組んで、ふと気づく。


 彼らの証言には違和感があった。なんだろうかとクロノスは五人の証言を頭の中でまとめていく。


 デニスはアリソンは見ていないが、カルメンとリリックがテーブルの傍に居たのを目撃している。だが、アリソンは外に居たと証言。


 カルメンはテーブルの傍にある本棚に本を直していたと主張し、リリックはテーブルの傍に居たが汚れた床を掃除していたと反論した。


 セリオは道具を片付けていたが、カルメンとリリックは見かけていないと言って二人が嘘をついているのではないかと疑っている。


 すっとクロノスの目が細まった。一人、違和感のある回答をしている人間がいる。確かめる方法はいくつかあるがと、クロノスがレミリアを見遣れば、彼女も気づいたようだ。


 ちらっと視線を向けてこそっと耳打ちしてきた。



「一人、おかしなことを言ってませんか?」



 聞き方や相手の言い方の問題でしょうかと問うレミリアに、クロノスは「では、確かめてみようか」と囁いてから、言い合う三人の元へと歩み寄る。



「少し言い合うのを止めたほしい。君たちの話を聞いて疑問が一つ浮かんだのだが、いいだろうか?」



 疑問とは。五人は顔を見合わせながら不思議そうしてみせる。彼らの反応を見止めながらクロノスは「聞いていくが」と問いかける。



「今、発言した言葉に嘘はないということだな?」


「もちろんですよ!」



 カルメンがそれはもう大きな声で返事をする。続くように他の四人も頷いたので、クロノスはあからさまに首を傾げてみせた。




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