第14話 聞き込みと証言
騎士学科の二年生たちにベニートの事を聞けば、口をそろえて言われた。「あいつ、しつこいんだよな」と。
練習試合で負ければ自分が納得するまで何度も戦いを申し込んでくる。遊びの誘いだって日程が合うまで言い続けるし、女性に断られてもなかなか引かない。
悪い奴ではないがしつこいので面倒くさい。これがベニートの友人たちからの総評だった。
誰かに恨まれるようなことをしていたのかという質問には、「悪さできるほどの度胸はなんじゃないか」と返される。ただ、一つ言っていたことがあった。
『あいつ、好きになった女性にとことん付きまとうからさ。女の子からは評判悪くってな。気持ち悪いって言われてたんだよ』
しつこい性格が仇となってか、告白やアピールを拒絶されても引き下がらずに押しつけてしまっていたようだ。
そのため、女子からは気持ち悪いと避けられていたので、女性関係で恨みを買ったかもしれないというのが、騎士学科の生徒たちから聞いたベニートの話しだ。
次にデオダとエドガーの事を聞くと別の話が出た。
デオダは妹が大好きで時間がある時の殆どを共に過ごしている。そんな妹セリーヌにベニートが惚れて言い寄っていたと。
けれど、セリーヌはエドガーに片想いをしているらしく、三角関係のようになっていたらしい。デオダはエドガーもベニートも妹を狙う男としてちょっとした敵意を向けていたように見えたのだという。
エドガーは落ち着いていたがベニートはセリーヌにしつこく言い寄っていたので、デオダとは事あるごとに喧嘩していたのを騎士学科の同級生たちは見かけていた。
クロノスは聞き込みの話をまとめながら本館と別館を繋ぐ渡り廊下をレミリアと歩く。
「これらの話を元にレナント捜査課隊長はこの三人を容疑者に絞り、セリーヌが犯人ではないかと結論を出したのか」
「彼女の魔法薬師学科の同級生もベニートの事を知っていましたからね」
ベニートはデオダに邪魔されないように先回りして魔法薬師学科のほうに顔を出しては、セリーヌに言い寄っていたのを目撃されている。
セリーヌも友人に「困っている」と相談していたので、ベニートへの対応に悩んでいたのは事実だ。
「さらにはセリーヌがピルケースを渡している。疑いたくなるのも無理はないか」
「けれど、それだけでは決め手にはなりません。自白したわけではないのですから」
決めつけるのはまだ早いというレミリアに確かにとクロノスは頷いて、ふと窓から見える景色に学院に通っていた頃を思い出した。
学院の裏には様々な植物が植えられている。それは魔法薬師学科で使う薬草だったり、農業学科の生徒たちの育てた作物だっりとさまざまだ。
その中でアダゴンタは害虫害獣除けとして植えられていたのを覚えている。下手な薬よりもよく効くと。
(そういえば、ほぼ常駐している変わり者の教授が居たな……)
農業学科の変わり者教授。雨の日だろうと雪の日だろうとほぼほぼ外で植えられた植物と共に一緒に居る男性教授が一人いた。
「クロノス魔導司書官。彼がピルケースを渡したのを目撃した騎士学科の生徒アンダル・ヴェージュさんと、デオダさんと待ち合わせをしていたボトヴィット・ベルマンさんです」
渡り廊下の先で二人は待っていた。事前に生徒が先回りして彼らに教えてくれていたようだ。聖女様自ら話をお伺いに来ると。
アンダルは短い青髪を掻きながら「ぼくは大したことは話せないのですが」と申し訳なさげにしている。ボトヴィットは茶色の癖毛を跳ねさせがら、「おれも」と困った様子だ。
二人とも体格が良く高身長で身長の低いレミリアは彼らを見上げていた。威圧感はないが圧迫感を抱かなくもない。けれど、騎士団に出入りしているので、彼女は慣れているのか動じる気配はなかった。
「まずはアンダルさん。貴方はいつ頃、ピルケースを渡すのを見かけましたか?」
「えっと、確か午前中だ。二限目講義明けにデオダの妹さんがやってきて、ピルケースを渡したんだ」
三年と二年の合同訓練講義が終わった後、ベニートをセリーヌが訪ねた。彼に「ピルケースを訓練場のロッカールームに忘れていたみたいですよ」と言って。
訓練場のロッカールーム。クロノスは疑問を抱く、彼女はどうしてピルケースを持っていたのか。セリーヌは魔法薬師学科の生徒だ、訓練場を利用はしない。
そもそも、男女別のロッカールームなのだから、ベニートが忘れたピルケースを見つけるのは難しいのではないか。クロノスは「何故、彼女が?」と質問してみた。
「訓練場のロッカールームなら、彼女が持っていることに違和感がある」
「それはぼくも思ったんで聞いたんですよ。そしたら、兄が見つけたみたいでって」
デオダがベニートのピルケースを見つけたが、体調不良で三限目の授業も受けられそうにないから代わりに届けてほしいと、セリーヌに頼んだとアンダルは聞いたと証言する。
体調不良の話は聞いていなかったな。クロノスは何か引っかかりを覚えたが、ボトヴィットの話を聞く。
「ボトヴィットさんは待ち合わせをしていたのは事実ですよね?」
「はい。あいつ真面目なんで試験の時は必ず助言を求めに来るんですよ。で、今回もそうだったんですが、いつもなら談話室なのに事件の日は渡り廊下を指定してきて」
「その理由は聞きましたか?」
「あぁ、なんでも体調を崩したから人が多い場所は気持ち悪くなるから避けたいって言ってたな」
談話室は各学科の生徒たちが集まる。休息スペースなのだが騒がしくする生徒も中にはいるのだが、その声で気分が悪くなるからと言われたと、ボトヴィットは証言する。
騒がしいのならば食堂も同じではないのか。クロノスの記憶の中にある学院の食堂は騒がしかった。
「時間は十三時過ぎだったのは間違いなのですね?」
「そうです。十三時の鐘が鳴ってから十分? ぐらい過ぎてたかな。でも、待ち合わせ時間は十三時二十分だったから過ぎてはなかったんだ」
「あれ? デオダさんはそのような事は言っていませんでしたが……」
待ち合わせ時間を聞き、レミリアはそうですよねと確かめるようにクロノスを見る。
デオダは十三時過ぎに待ち合わせ場所に行ったとは話していたが、正確な待ち合わせ時間があるとは口にしていなかった。クロノスの認識もそうだ。
「デオダは君の助言を聞くときは必ずメモをとるのだろうか?」
「あぁ、そうだですよ。あいつ、そういうところは真面目なんですよ。妹さえ関わらなければ」
「やはり、デオダさんはかなりの妹想いだったのですね」
「妹想い? あれは変ですよ。妹を可愛がってるけど、なんか違和感があるっていうね」
ボトヴィットは「エドガーも可哀そうに」と彼を憐れむ。エドガーは平民ではあるが、男爵令嬢と幼馴染で親しい関係なのだと教えてくれた。
セリーヌが恋心を抱いたせいで、ベニートとデオダからだいぶ面倒をかぶせられたらしい。「あいつらどうにかならねぇかな」と、愚痴っていたと。
「男爵令嬢の幼馴染とこじれかけたって言ってたしなぁ。苛立ちはあったと思いますね、あれは」
あれはそろそろ怒鳴り込んでいたかもしれない。ボトヴィットの言葉に会った時と印象が違うなとクロノスは彼の言動を思い起こす。
なんとも気だるげで、それでいて丁寧だった。ただ、三人とも共通として、〝ベニートが殺される理由〟に心当たりがないと証言している。
他の騎士学科の学生たちはベニートの性格面、しつこいことに関して指摘し、女性から恨みを買っていたかもしれないと思いついているのにだ。
「ベニートは昼食はいつもどうしているのか、知っているだろうか?」
「あー、あいつはいつもこっそり昼食をとるんですよ。薬を飲む姿を見られたくなくて」
「どうしてでしょう?」
「いや、あいつ栄養剤を飲んでるんですけど、粉薬をそのまま飲めないんですよ」
錠剤やシロップ剤は飲めるが粉薬だけはそのままでは口に入れただけで吐き出してしまうらしい。なので、子供や老人向けにある薬を包む膜を利用していた。
ベニートは子供用のを使用してたこともあって、小柄なこと以外でのからかいの種にされたくなかったのだ。なので、こっそり飲むために人気ない場所を選んでいたと、ボトヴィットはベニート本人から教えてもらっていた。
ちっさいプライドですよと、ボトヴィットは肩をすくめてみせる。
「それはデオダやエドガー、セリーヌは?」
「あー、デオダとエドガーは知ってる。デオダの妹はベニートが惚れていた相手だから隠してたはずだ」
デオダ経由で知っていたかもしれないけれどと、ボトヴィットが付け加える。
クロノスは証言を脳内で整理していた。引っかかっているのは、三人の共通している〝ベニートが殺される理由を知らない〟点と――
「農業科の変わり者、ヘルマンニ教授はまだ在籍しているだろうか?」
「あの植物オタクの教授はいつも学院の裏の畑に常駐してますね」
「でも、昨日は野外採取で午後は学院にはいなかったんじゃなかったか?」
「そうだけど今日、戻ってきてるよ。農業科の友人が長々と話を聞かされたって愚痴ってた」
今もまた学院の裏にいるはずさと、アンダルの言葉にクロノスは「ありがとう」と礼を言って、踵を返し渡り廊下を歩く。
突然の切り返しにレミリアが「ちょっとクロノス魔導司書官!」と呼びかける声がするが、クロノスは確かめたいことがあった。




